研究課題/領域番号 |
22330261
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中野 泰志 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (60207850)
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キーワード | 教育系心理学 / 実験系心理学 / 視覚障害 / 弱視 / 教科書 / 拡大教科書 / 読書 / 評価 |
研究概要 |
現在、拡大教科書を選定するための科学的評価法は確立されていないため、給与された拡大教科書が有効に活用されていなかったり、必要な教科書を入手することができなかったりしている可能性が高いが、その実態は明らかにされていない。そこで、著者らは、昨年度、拡大教科書を必要としている児童生徒が多いと考えられる視覚障害特別支援学校や弱視特別支援学級の教員を対象に、拡大教科書の選定に関する実態調査を行った。本年度は、拡大教科書の普及・啓発において重要な役割を果たしていると考えられる教科書センター884箇所を対象に選定支援の実態を調査した(有効回答数426件[48.2%])。その結果、拡大教科書の選定支援はほとんど行われていないことがわかった。しかし、評価キットがあれば、利用したいというセンターが8割を越えていたため、200箇所に試作した評価キットを送付し、試用していただいた。その結果、83.4%のセンターから「有効だと思う」という回答が得られた。 次に、文字サイズや照明等の視環境を変化させたときに、弱視児童生徒が教科書との視距離等をどのように変化させるかを非拘束の条件で評価するために、3次元磁気センサーを用いた評価ソフトウェアを試作した。また、文字を用いて有効視野を測定するために開発した文字処理有効視野評価システムが、最新のPCでも動作するように、改良を行った。さらに、現在、読書評価に最も利用されているMNREAD-Jや小学生用に改良されたMNREAD-FUEに用いられている文章の難易度が均一であるかどうかを検討する実験を実施した。加えて、評価システムに最新のタブレット型携帯端末が利用できるかどうかを検討するために、研究協力校の視覚障害特別支援学校でiPad2を学習へ導入する試みを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、拡大教科書の選定を支援するための生態学的妥当性の高い評価システムを開発することを目的にしている。これまで、拡大教科書の選定実態の調査に基づき、評価システムのパーツとして、評価キット、自由視条件での視距離評価ソフトウェア、文字処理有効視野評価システムの改良、読書評価ツールの検討等が試作できている。眼球運動を評価するためのシステムは、ハードウェアの制約により、中心暗点のある弱視生徒や極めて視力が低い場合等には適応できないことが明らかになったため、来年度の検討課題とせざるを得なくなったが、その代わりに、タブレット型携帯端末が評価に利用できる可能性を検討することができた。したがって、本研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上述した通り、本研究は、おおむね当初の予定通り進展している。当初予定していながら、実現できていない眼球運動を評価するためのシステムを構築するために、来年度、大学で新しい眼球運動測定装置を購入する予定である。来年度は、今年度、試作したパーツを組み合わせ、学習環境、発達段階、補助具等の操作能力等を評価するための検査バッテリー、拡大教科書の選定支援をするためのエキスパートシステム、特別支援学校等に本システムを普及させるための教材・研修プログラムを開発する計画である。
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