研究課題/領域番号 |
22340003
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
齋藤 秀司 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (50153804)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 数論幾何学 / モチフィックコホモロジー / モチーフ / ホモトピー不変 |
研究概要 |
ホモトピー不変性をもたないモチーフの理論の構築に着手した.モチーフの理論は数論幾何学,代数幾何学における重要な研究対象である。これまでの理論ではホモトピー不変性が理論の基本的前提条件であった。当該研究ではこれを仮定しない理論へと拡張することを目的とする。これは数論的な応用、たとえば分岐理論への応用上,非常に重要であると考えられる。ホモトピー不変性をもたないモチーフの理論の研究は二つの部分に分かれる. (1) モヂュラス付きのモチフィックコホモロジー理論:モチフィックコホモロジーとはスキームにたいして定義される重要な幾何学的不変量で,世界的レベルで活発な研究がおこなわれている.当該研究ではスキーム上の有効カルティエ因子をモヂュラスとする「モヂュラス付きのモチフィックコホモロジー」を新たに定義し、これについての基本的な性質(関手性、余次元1の場合の計算、レギュレーター写像の構成)をいくつか示した. (2) Voevodskyの定義したモチーフの三角圏は代数的サイクルの研究において重要な役割をもつもので,活発な研究が世界的なレべルで行われている.その構成では「ホモトピー不変層」が基本的な役割を果たした。当該研究では「ホモトピー不変層」を拡張する新しい概念として「reciprocity層」を導入し、Voevodskyが示したホモトピー不変層に対する基本定理のいくつかをreciprocity層に拡張することに成功した.reciprocity層は、Voevodskyのモチーフの三角圏を,ホモトピー不変性を仮定しない理論へと拡張するための基本的な道具となると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
モチーフの理論は代数幾何学において重要な役割を持つものである.モチーフ理論に大きな進展をもたらしたVoevodskyにフィールズ賞が授与されたことからもこの問題がいかに世界的レベルで重要視されているかがわかる.Voevodskyの理論ではホモトピー不変性を満たす層(ホモトピー不変層)が理論の基本的構成要素であった.しかしこれは数論,特に分岐理論への応用を考える上で強い制限となり,この意味でこれまでの理論は不完全であると言わざるを得ない.当該研究では,ホモトピー不変層を拡張する相互層の理論を新たに構築し,Voevodskyがホモトピー不変層にたいし示した多くの基本定理を相互層にまで拡張して示すことに成功した.これはモチーフ理論を数論への応用にも十分な枠組みへと拡張するための重要なステップを成し遂げたことになる.
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今後の研究の推進方策 |
モヂュラス付きのモチフィックコホモロジー理論:従来のモチフィックコホモロジーにおいて基本的な役割を果たす「moving lemma」をモヂュラス付きのモチフィックコホモロジーへと拡張する方針である.これにより新理論が飛躍的に発展することが期待される. Reciprocity層の理論:Voevodskyのモチーフの理論を,ホモトピー不変層をreciprocity層に置き換えて展開する方針である.これによりモチーフの理論が数論への応用にも十分な枠組みへと拡張されることが期待される.
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