研究概要 |
弧(arc)とは1変数で表示された微小な曲線であり,$m$次のジェット($m$-jet)とは微小な曲線の$m$次近似である.弧空間(space of $m$-jets)は一つの代数多様体上の弧全体の集合であり,$m$次ジェット空間(space of $m$-jets)は$m$次ジェット全体の集合である.これらには自然にスキームの構造が入り,その代数多様体の性質を反映する幾何学的対象になっている. 因子的附値に対して弧空間の既約閉集合が対応し,それらの既約閉集合の包含関係が因子的附値の条件で表されるかどうかを調べた.具体的には附値の大小関係があれば対応する既約閉集合の包含関係はあるが,逆は言えないことを例をあげて示した. この既約集合の余次元は対応する因子的附値におけるMather discrepancyで与えられることを示した. また弧空間やジェット空間の性質がどのように多様体の性質に反映してくるかということは興味深い問題であるが,ジェット空間が非特異であれば多様体も非特異であること,ジェット空間の間の切り詰め射が平坦であれば多様体は非特異であることがわかった. 多様体の間に射があるとき,それから導入されたジェット空間の射が同形であれば多様体の射は同形になることも分かったが,多様体の間の射の存在が保証されていないとき,ジェット空間の間に同形射があっても多様体の間に同形射は存在しないことを例を用いて示した.また,ジェット空間の上の種々の幾何学的性質($\Bbb Q$-Gorenstein性,標準性,対数的標準性,終着性,完全交叉性)が多様体の性質にも遺伝することを示した.これまで,色々な人たちによって観察されてきたこと:「ジェット空間が全てある性質をもてば多様体はそれよりももっと良い性質を持つ」ということに基づき「ジェット空間が全て高々有理特異点をもてば,多様体は非特異であろう」という予想があったが,正標数手法を用いて反例をあげた.渡辺は次数付き環がGorenstein環になるための幾何学的な条件を求め,与えられた任意の正規射影多様体に対して,それをProjとしてもつquasi-Gorenstein環が存在し,さらにその多様体の中間次元のコホモロジー群が消滅していれば,その多様体をProjにもつGorenstein環が存在することを示した.高木はDemailly-Ein-Lazarsfeldの乗数イデアル層の劣加法性を,Q-Gorensteinとは限らない代数多様体上に拡張した.また,藤野修・Karl Schwedeとの共同研究において,maximal non-lc idealの性質を調べた.特に,局所完全交叉の場合に,制限定理を証明した.
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