研究概要 |
1.各要素が独立同分布標準複素ガウス確率変数で定義された有限サイズの行列の固有値は,ランダムな点配置とみるときすべての相関関数が行列式であらわされる.行列のサイズを無限大とする極限でこのランダム点配置はGinibre点過程とよばれる指数核をもつ行列式点過程に収束する.研究代表者白井朋之は,長田博文(九大)との共同研究で,Ginibre点過程とそのパーム測度との間の絶対連続性について議論した.Poisson点過程ではパーム測度が自分自身と同分布,特に絶対連続となるが,Ginibre点過程では粒子密度が減少することが知られており,元の点過程とパーム測度は互いに特異になることを示した.また,同じ個数の点を条件つけたパーム測度同士は互いに絶対連続になることも示した.この結果については,高知大学において開催された国際研究集会「大規模相互作用系の確率解析」(2011年12月5日~7日)で発表した. 2.白井はランダムな解析関数の零点に関する関数型中心極限定理について議論し,またある種のウィナー積分の零点が行列式点過程となることを示した.これらの結果は,関西大学で開催された確率論シンポジウム(2011年12月19日~22日)において,ランダム解析関数に関するサーベイ講演とともに発表された.また,成果は論文として京都大学数理解析研究所の講究録別冊において出版予定である. 3.研究分担者の香取眞理と種村秀紀は,多時刻相関関数に行列式構造をもつ確率過程について研究を行ない,特にそれら行列式点過程のうち典型的な3つの例に対して,そのマルコフ性に関する研究を行なった. 4.また,分担者の香取眞理はO'Connell過程とViciousブラウン運動との関係についての考察を行なった.この結果については,Warwick大学における国際研究集会「Interacting particle systems, growth models and random matrices」(2012年3月19日~23日)において発表された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行列式点過程の中でも特にGinibre点過程の考察が十分に進んできた.この点過程は,行列式構造をもつ点過程の中でももっとも典型的でよい構造があり,今後の様々な発展研究のプロトタイプとなる.また,無限粒子系の時間発展を多時間相関関数により研究する方法は,現在進行形のO'Connell過程の研究との関連でも重要である.香取・種村の研究によりこの方向も進んできた.
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今後の研究の推進方策 |
Ginibre点過程の考察が十分に進んできた.この点過程についてのこれまでの結果を踏まえて,さらに詳しい性質,特にGinibre点過程から定まるランダムな整関数の性質を調べるのが今後の研究の課題である.一般に,複素平面上の点過程は自然に整関数の空間に確率測度を誘導する.この確率測度と点過程の関係を調べることができれば,これまでに研究してきた内容を,別の観点から見なおすことができる.また,O'Connell過程は現在もっとも注目されている研究課題であり,その基本的性質を調べていくことは重要な方向である.
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