研究課題/領域番号 |
22340029
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
谷島 賢二 学習院大学, 理学部, 教授 (80011758)
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キーワード | シュレーディンガー方程式 / シュレーディンガー作用素 / 数理物理学 / 関数解析学 / 作用素論 / 微分方程式 / スペクトル理論 / 散乱理論 |
研究概要 |
量子力学的粒子の運動方程式であるシュレーディンガー方程式の解の存在と一意性、ならびに解の時間無限大における漸近的な挙動を研究した。シュレーディンガー方程式の解の存在と一意性の問題は、量子力学の様々な運動のモデルが実際に粒子の運動を記述できるのか否かを判定することであり、その一般論を構成することは意味のあるモデルの範囲を確定することと等価で極めて重要である。この問題は方程式に現れるシュレーディンガー作用素が時間に依存しない場合は、すなわち粒子系が孤立系である場合は、この作用素が自己共役であるか否かと同値で、1948年の加藤敏夫の先駆的な研究以来多くの研究者によって研究され1990年までにはほぼ決着がついたのであるが、粒子系が外界から時間に依存する力に影響される場合は、すなわちシュレーディンガー作用素が陽に時間に依存する場合は、問題はより複雑で未だに未完成である。研究代表者はこの問題に関して系が時間に関してなめらかに変化する時には、時間に依存しない場合の最良の結果を完全に含む一般的な結論を得た。量子力学的粒子の時間単位の短さのため、通常の時間の長さは粒子にはほぼ無限大であることからシュレーディンガー方程式の解の挙動に関する興味は多く時間無限大における漸近挙動である。この際束縛状態は定常状態の重ね合わせだから、問題はこの観点からは単純であり、問題は散乱解の挙動である。研究代表者は、相互作用のポテンシャルが粒子間距離が無限大に発散する時、急速に零に減衰する場合に散乱解の時間無限大における漸近展開公式を最大値ノルムを展開のトポロジーとして証明した。この結果は重み付きヒルベルト空間のトポロジーによって得られていた従来の結果を自然なトポロジーに置き換えたものである。この結果の証明のため、シュレーディンガー作用素のレゾルベントの実軸上への境界値の作用素としての新たで有効な評価式を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)シュレーディンガー方程式の解の存在と一意性に関してはある方向には予想以上の結果を得ることができた。とくに電場の無限遠方での斥力が強力で通常では粒子が有限時間の間に無限遠方に飛散され、粒子の一意的な運動を決定するためには、無限遠における境界条件を設定する必要がある場合でも、磁場の引き起こすサイクロトロン運動が十分強力であれば粒子の無限遠方への飛散が阻止され、粒子の運動がシュレーディンガー方程式のみによって一意的に決定されることを示せたのは予想以上であった。しかしながら、この結果ではポテンシャルの時間に関する微分可能性を仮定している点で不満足でこの方向には進展は不十分であった。これは手法が最終的には時間依存型半群の理論に依存しているためでこの部分の改善が必要である。(2)解の時間無限大における漸近展開の問題については、3次元空間の正則シュレーディンガー作用素に対しては当初目論んだ結果を得ることができた。しかしより一般の次元の空間における解の漸近挙動、ならびにシュレーディンガー作用素が特異型の場合については解決に至っておらず達成度は全く十分とはいえない。これは技術的に解決すべき困難が多くことに起因する。とくに大きな次元の空間におけるラプラシアンのレゾルベントの積分核が複雑であること、特にエネルギー無限大での肥大化が、とくにヒルベルト空間のおいて有効な直交性の議論を用いることが困難なルベーグ空間においては、現在の技術ではコントロール不能であること、また特に偶数次元空間においてエネルギー零における閾値挙動が複雑であることに起因する。またこれらの問題に研究時間をとられたため、当初の研究目的に掲げた時間に周期的に依存するポテンシャルを持つシュレーディンガー方程式の束縛状態の安定性・不安定性に関する研究は全く進展をみなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後もシュレーディンガー方程式、シュレーディンガー作用素に関する研究を進めていく方針で、これまでに得られた結果を上記の達成度の欄に記述した場合に拡張していくことを考えている。(1)解の存在と一意性についての時間に関するなめらかさの仮定を除去するため、時間を込めた空間での作用素論的なアプローチを試みてみたい。(2)シュレーディンガー方程式の解の漸近挙動を一般次元の空間あるいは特異型シュレーディンガー作用素に対して研究するさいに現れる上に述べた困難を回避する一つの方法は、研究代表者が20年前から10年前までに研究を進めた散乱理論の波動作用素を用いることである。この時に得られた波動作用素のルベーグ空間での連続性に関する結果が、ごく最近 M. Beceanuによって3次元空間でシュレーディンガー作用素が正則の場合に劇的に改良され解析が可能なほぼ最大のクラスのポテンシャルに対して波動作用素の連続性が証明された。しかしこの証明法はきわめて複雑かつ難解で、そのままでは一般化できない。この理論を簡単化して一般化することによって波動作用素の連続性を示し、そのことによって上記の問題が解決できると考えている。このため平成25年度科学研究費補助金などにBeceanu氏ならびにレゾルベントの閾値解析に詳しいAalborg大学のA. Jensen氏を招聘し共同研究を行うことを予定している。研究がさほど進展しなかった時間に関して周期的なポテンシャルを持つシュレーディンガー方程式の束縛状態の安定性・不安定性のの問題については引き続き、たとえば複素関数論からの手法など様々アイデアを試して解決の道筋を探りたいと考えている。このためこの問題に造詣の深いRutgus大学のAvy Soffer教授を招聘し共同研究を行って研究の進展を模索したいと考えている。
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