研究概要 |
報告者は1993年以来,量子力学の散乱現象を記述するシュレーディンガー作用素に対する散乱理論における基本的な量である散乱の波動作用素のルベーグ空間ならびにソボレフ空間における連続性の問題を研究し,2002年までにはシュレーディンガー作用素の連続スペクトルの下端が正則の場合には, 波動作用素は空間次元が3以上の場合は任意の指数をもつルベーグ空間において, 空間次元が1あるいは2の時は指数1ならびに無限大を除いてに有界であることを示した。この結果は様々な方面において応用されて重要である. 一方シュレーディンガ作用素が連続スペクトルの下端で特異性を持つ場合の同じ問題の研究は遙かに困難なため報告者による2006年, 報告者とJensen教授とによる共著の2008年の論文があるのみである。さらにこれらの論文の結果は部分的ある。報告者は今年度この問題に再度挑戦して次の結果を得た:ポテンシャルに対する適当な滑かさと無限遠方における減衰の条件の下で, 波動作用素は次の指数をもつルベーグ空間において有界である:次元が3次元の時は1と3の間の指数に対して, 4次元以上の時は1と空間次元の1/2の間の指数と指数2に対して. さらにこの結果を用いてこの様なスペクトルの特異性をもつシュレーディンガー作用素にともなうシュレーディンガー方程式の初期値問題の解作用素に対していわゆる分散型評価が上記の指数とその双対指数をもつルベーグ空間の間において成立することを証明した. さらにこの期間に招聘したMarius Beceanu教授ならびに Abraham Soffer教授と, 同教授等が開発した方法によって2002年までに得られた正則型シュレーディンガー作用素の波動作用素に対する結果をより一般化することを試みたが, これについてはいまだ技術的な障害のため成功に至っていない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者はシュレーディンガー作用素に対する散乱理論の波動作用素のルベーグ空間における有界性の問題を20年以上にわたって研究をしてきたが2013年度の研究において次元2を除いて、やや強い条件の下ではあるが, ほぼ完成させることができた。しかし、殆どの研究時間をこの問題に費やして, ほかの懸案の問題, 特にハーバード大学の H. T. Yau教授を招聘して研究を開始するはずであったランダム行列の研究, ならびにGrapheneの数理に関する研究がいまだ殆ど手つかずのままである点は残念ではある.
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今後の研究の推進方策 |
シュレーディンガー作用素の散乱理論における波動作用素のルベーグ空間・ソボレフ空間における連続性の問題に関して得られた結果をまとめ, さらに細部を詰めて論文とすること, さらに未解決の2次元の場合について研究を進める方針である. Grapheneの数理に関する研究を開始する。いくつかの研究論文により情報を収集すると同時に, 26年度8月にこの方面の研究者の一人であるデンマーク Aalborg大学のCornean教授を訪問して共同研究を試みる予定である。さらに可能であれば同教授を招聘して共同研究をすることを考えている.
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