本年度の研究活動の成果は主に次の2点である.
第1はこれまでの研究結果についての論文の執筆および公表・出版である.昨年度から続けている負曲率多様体上の測地流(または、接触アノソフ流)の半古典ゼータ関数の研究の成果について、論文を執筆し公表した.おおよそ100ページの大部の論文となったがこれまでほとんど知られていなかった力学系のゼータ関数の零点の分布について、特に半古典ゼータ関数の場合にそれが虚軸の近傍に集中することなどの重要な結果を与えた.論文は現在投稿して査読を受けている.一方、昨年度執筆した前量子アノソフ写像(接触アノソフ流の時間離散的モデル)について、査読者からの意見をもとに今年度に大幅な改定を行い、フランス数学会が出版する Asterisque の一巻として出版されることになった.
第2は円周上の拡大写像の懸垂流として得られる拡大的な半流について、 Parry と Pollicott による、いわゆる「素周期軌道定理」(力学系の周期軌道の周期について素数定理の類似)の剰余項について、精密な漸近評価を得たことである.今回得られた結果は、系についての生成的な条件のもとで、不定曲率曲面上の測地流について古典的な Huber の結果に相当する結果を与える、すなわち、ある値Tよりも小さな周期を持つ素周期軌道の個数が、Tが大きくなる極限においていくつかの共鳴項とそれらに比べて指数的に小さな剰余項の和として表され、最後の剰余項の指数オーダも最大リヤプノフ数と位相エントロピーの比によって具体的に与えられる.論文はプレプリントとして公表されている.(arXiv:1502.00422)
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