研究課題/領域番号 |
22340051
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 富雄 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 教授 (50126059)
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研究分担者 |
浅井 祥仁 東京大学, 大学院・理学系研究科, 准教授 (60282505)
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キーワード | 素粒子実験 / ミリ波 / ポジトロニウム / 超微細構造 / 量子電磁力学 |
研究概要 |
電子・陽電子束縛系であるポジトロニウムの基底状態には、スピンの状態に応じてオルソポジトロニウムとパラポジトロニウムの二つの状態がある。この二つの状態間には203GHz(0.84meV)のエネルギー準位差があり、超微細構造と呼ばれる。この準位差に相当する強力ミリ波を照射して、両者の問に直接遷移を起こし、その共鳴曲線の中心値から超微細構造の値を、共鳴幅からパラポジトロニウムの寿命を測定する。当該年度は、前年度の研究を引き継いで測定器を開発し、それを組み合わせて運用した。ジャイロトロン、モードコンバーター、ファブリペロー共振器、ポジトロニウムアセンブリ、ガンマ線検出器の各要素をうまく組み合わせ、直接遷移測定器を組み立てた。これにより約10kWのミリ波パワーを共振器内に蓄積可能となり、現実的な遷移測定が可能となった。 20Hz(デューティー比30%)のミリ波を繰り返し共振器内に入力し、周囲のガンマ線検出器でポジトロニウム崩壊シグナルを観測した。約1週間測定を行い、バックグラウンド除去のカットを行った後、「ミリ波あり」と「ミリ波なし」の時の差をとることで、511keVのガンマ線ピークとして明瞭な遷移シグナルを観測することができた。統計的な有意性は5.4σであり、遷移レートは量子電磁力学による計算値と無矛盾であった。また、入射ミリ波強度や入射周波数を変化させて応答の変化を観測し、確実に遷移起源のシグナルであることも確認した。この測定は、ポジトロニウム超微細構造遷移の世界で初めての直接測定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、世界初の超微細構造直接遷移観測に成功した。今後はこれを複数の周波数で観測し、共鳴曲線を求めることで寿命測定を行う。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に行った直接遷移測定を複数の周波数で行い、ポジトロニウム超微細構造の共鳴曲線を求める。その際、ジャイロトロンの発振周波数を変更する必要が生じるが、ジャイロトロンをデマンタブルに改造し、内部の共振空洞を都度交換することで対応する。また、モードコンバーターもジャイロトロンに内蔵し、出力強度も強める。 各周波数で約1週間ずつ、計7種類程度の周波数で遷移観測を行い、共鳴曲線を出す。その曲線の幅からパラポジトロニウムの寿命を求める。
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