研究課題/領域番号 |
22340062
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
渡邊 靖志 神奈川大学, 工学部, 教授 (40126199)
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研究分担者 |
上原 貞治 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (70176626)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子色力学の検証 / Bファクトリー実験 / 共鳴粒子の構造性質 / タグした二光子過程 / 中間子対生成反応 |
研究概要 |
まず,タグした二光子過程での中性π中間子の遷移形状因子のQ2依存性についての論文を仕上げ,Phys. Rev. Dに投稿し出版された。ライバルのBaBar実験からは,理論の予言を大きく超える結果が出されていて大きな話題となっていたが,それを否定する結果を得て,1件落着させた。 次に,ノータグ二光子過程による短寿命中性K中間子対生成反応の論文ドラフトを完成させ,現在Belle実験内でのコメントを待っている段階で,本質的な間違い等が発見されなければ投稿・出版に至る。この反応の敷居値付近からの微分断面積の測定は世界で初めてであり,しかも,高統計を生かして次のような結果を得た。まず,f2(1270)中間子とa2(1320)中間子との位相差を求めたところ,ほぼ180度であり,理論の予言通り,最大限の負の干渉をしていることを高精度で示した。また,f2'(1525)中間子の質量,幅,二光子崩壊幅を初めて干渉を考慮して決定した。さらに,積分断面積に現れる1.7GeV付近,2.3GeV付近,2.6GeV付近のピークが,それぞれスカラー,テンソル,スカラー粒子であると結論し,また測定した二光子幅の大きさから,一部の理論家の予言に反して,これらがグル―ボールではないと結論した。とくに最初のピークは従来テンソル粒子と思われていた結果を覆し,また最後のピークについては,このような高質量でスカラー粒子を同定したのは初めてである。 それに加えて,高エネルギー領域では,すでに出版されたBelleの解析結果を3倍の高統計によりアップデートし量子色力学の予言を検証した。また,ηc中間子のP不変性,CP不変性を破る中性π中間子対への崩壊モードの探索を行い,上限値を更新した。これらの結果は,Belle実験の独壇場であり,他の追随を許していない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はほぼ予定通りに進んでいて,これまでの達成度は目標の9割以上である。 まず,当初の目的であった,ライバル実験BaBarからの遷移形状因子の結果を独立に検証する目的は,論文出版で見事果たした。BaBarの結果は,量子色力学の予想を大きく超えるものであり論議を呼んだが,Belleの結果はそれを否定し,一件を落着させた。 次にノータグではあるが重要なチャンネルである短寿命中性K中間子対生成反応の微分断面積の測定およびその解析を終え,もうじき投稿予定である。ここでも従来の1000倍以上のBファクトリー実験での高統計を生かしての詳細な解析が可能となり,実績で書いたように他の追随を許さない結果を得た。 マンパワーの割には頑張っていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、タグした二光子過程による中性π中間子対反応の微分断面積を測定し,形状因子のQ2依存性を求めて理論の予想と比較するなど,タグした光子での解析を進める予定である。問題点は,形状因子のQ2依存性が統計不足のためこれまで誰もやっていないことであり,まずその方法を確立する必要がある。プレリミナリーなデータ解析では,f2(1270)中間子のQ2依存性は問題無く出せそうなことがわかった。さらにf0(980)について同様の物理量の抽出が可能かどうかスタディ中である。タグした二光子過程生成反応ではヘリシティ1の成分すなわち,D1波などが効いてくる。f2(1270)のD0,D1波への寄与の抽出もねらっている。また、長年存否が確立されていないf0(500)の性質に迫まれればうれしい。 さらにその先の目標として,タグした二光子過程による短寿命中性K中間子対生成反応の断面積の測定およびその解析がある。さすがに統計が少ないが,低質量のスカラー粒子であるf0(980)やa0(980)について情報が引き出せると大変有意義である。これは実際やってみないとわからないが,長年謎のままである低質量スカラー粒子の性質の解明につながることを期待している。
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