研究概要 |
初年度である平成22年度は、本研究課題の最終的な目標である「最新の高エネルギー散乱の記述に基づいた空気シャワーシミュレーションの作成」のための、最も基礎となる部分を整備することを試みた。具体的には、高エネルギーの陽子・陽子散乱、特にその前方方向の散乱断面積を最もよく記述する"DHJ (Dumitru-Hayashigaki-JalilianMarian)"と呼ばれる枠組、すなわち標的をカラーグラス凝縮、一方で入射粒子はDGLAP方程式を満たす通常の分布関数で記述するという「ハイブリッド」な枠組を用いた。但し、カラーグラス凝縮については結合定数のスケール依存性を考慮したBahtsky-Kovchegov方程式を取り扱った。この枠組は、RHIC(重心系エネルギー200GeV)での断面積をよく記述するので、それをLHC(900GeV, 7TeV),宇宙線(約400TeV)のエネルギーまで外挿した。LHCエネルギーでは、LHCfグループが測定している超前方方向の断面積があるが、我々の枠組はQCDのハードな寄与のみを取り入れたものであり、今後ソフトな寄与を取り込むことで比較する事が可能になる。 技術的には、結合定数のスケール依存性を考慮したBalitsky-Kovchegov方程式の数値解の整備、断面積の計算における衝突径数の導入の仕方などが重要な局面であったが、どちらも解決し、今後の計算に取り込むことができるようになった。また、枠組の不定性である繰り込み点依存性等も吟味した。
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