研究概要 |
原子核は魔法数と呼ばれるある特定の数の中性子・陽子から構成される場合、形状が球形となりエネルギー的に安定すると考えられて来たが、近年、核反応・核分光ベースの構造研究から、魔法数で安定化しない核構造異常(閉殻異常)が報告されている。当研究では閉殻異常の可能性が示唆されている中性子魔法数 N=20 及び N=28 領域の遠不安定核について、技術的困難さから測定例がほぼ皆無である核電磁モーメント測定を通じた研究を行った。ここまで、i) N=20 領域では中性子過剰核 33Al の基底状態の電気四重極モーメントの測定に成功し、得られたデータからこの核で閉殻異常が生じていることを突き止め、従来知られていた Ne, Na, 及び Mg 以外の Al で初めてこの現象が観測されたこと、ii) N=28 領域については中性子過剰核 43S の準安定励起状態の四重極モーメントの測定に成功し、低励起状態において異なる核変形状態が共存することが示唆さえること、及び iii) 励起状態の核モーメントを測定のための新たな技術として分散整合二回散乱法の開発に成功したことについて大きな成果が得られている。当該年度は特に ii) について、43S 核は、基底状態に生じている可能性のある閉殻異常を 励起準位に関する種々観測から消去法的に議論されている状況を踏まえ、議論に決着をつけるべく核電磁モーメント測定による基底状態の直接観測に向けた開発研究を行った。ここでは新たな偏極度測定装置の開発や NMR 用の高機能大強度高周波システムの開発を経て、43S の近傍核である 41S の核スピン偏極を生成することに成功した。これにより 43S を含めたこの質量領域の更なる遠不安定核を対象とする測定への道が拓けた。
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