本研究は、中性子欠損安定核元素p核の起源を高速RIビームの反応実験を通じて探索することを目的としている。重元素の合成は天体での中性子捕獲、陽子捕獲などの原子核反応を通じて起こるとされているが、これまでの研究では元素組成を再現するに至っていない。本研究では、爆発的水素燃焼過程でp核生成に大きく寄与したと考えられる陽子捕獲反応の断面積を高速RIビームの反応実験を通じて決定し、p核生成メカニズムの全容解明への端緒を切り開く。 実験では、高速RIビームの鉛標的上での分解反応を測定する。陽子を放出する分解反応は、陽子を捕獲する反応の逆反応に対応しており、この測定から天体での陽子捕獲反応の速度を高効率で決定することができる。 平成24年度は、これまで実験のために製作、開発したシリコンストリップ検出器、およびその読み出し回路系の試験測定を行った。シリコンストリップ検出器は、約90mmx90mmの大きな有感領域を持ち、約200μmピッチのストリップの入ったものを製作した。この読み出しのためには、5000倍程度の大ダイナミックレンジの回路を数千チャンネルで達成する高集積回路が必要となる。これを実現するために、高集積回路の設計製作、全体の回路システムの設計をアメリカのテキサス州立大学のグループと共同で行い、その回路に適合する大ダイナミックレンジの前置増幅回路のプロトタイプを製作した。 これらの検出器、回路系の動作確認、性能評価を、放射線医学総合研究所の重イオン加速器施設で供給される重イオンビーム、陽子ビームを用いて行った。高集積回路は多チャンネルの信号に対して設計通り動作し、また陽子と重イオンを同時に計測できる大ダイナミックレンジを達成していることも確認した。
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