研究課題
本研究は、宇宙線中に微量に含まれている反粒子(とりわけ未発見の反重陽子)の高感度探索を通じてダークマター等の初期宇宙物理の課題に迫ることを最終目的とする。宇宙線反重陽子は、超対称性粒子ニュートラリーノを始めとするダークマター候補の対消滅を起源として極微量が存在している可能性がある。その検出に最適な低エネルギー領域(運動エネルギー=数100MeV)にて最高の観測感度を得るため、宇宙線反粒子と測定器ターゲットとが形成するエキゾチック原子の崩壊過程から生ずる特性X線や荷電粒子を利用する、という従来にないオリジナルな粒子識別手法を用いた反粒子宇宙線測定器「GAPS(General Anti-Particle Spectrometer)」の開発を進めている。平成23年度は、プロトタイプ測定器による技術実証を目的とした気球実験を北海道大樹町にて実施することを目指し準備を進めた。プロトタイプ測定器は、GAPS測定器の各構成要素のスケールモデルから構成しており、気球の実フライト環境下で動作させることで性能評価を行う。プロトタイプ測定器の製作をほぼ終え、平成24年度中の気球実験実施を計画している。また、前年度に引き続きGAPS測定器の設計開発も進め、Si(Li)型半導体検出器の設計改良や量産化方法の検討、姿勢制御系・熱制御系・電源系などのペイロードのシステム設計、などを行った。熱制御系に関しては、熱輸送方法の候補である自励振動ヒートパイプに関して、世界に先駆けて立体配管化・低温環境への適用・大型化に成功するなど、本研究以外にも応用可能な工学的な成果も得た。
2: おおむね順調に進展している
プロトタイプを用いた気球実験を当初は平成23年度中に実施する予定であったが、気球実験の実施可能時期が天候によって限定されているという背景もあって、平成24年度への順延となった。その一方で、システム設計などは当初の計画以上に研究が進み、世界に先駆けての(しかも他用途への応用が可能な)技術的成果も挙げた。従って、総合的には概ね順調に進展している。
プロトタイプ気球実験を実施し、その結果をフィードバックさせることで、GAPS測定器の設計の改良を進め、本研究の目的を達成したい。低エネルギー反粒子のビームテストを実現できれば尚良いが、東日本大震災によるJPARC計画の遅れの影響もあって、実現性が低くなってきた。そのため、それを補うべく、過去のビームテストの結果の再評価によるシミュレーションの精度を目指す。
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Adv. Space Res
巻: 51 ページ: 290-296
10.1016/j.asr.2011.04.025