研究概要 |
強誘電体酸化物は多様な物性を有しエレクトロニクス産業を支えている.極低温環境における応用も大いに期待されている.しかし,温度の低下につれ,一般的に材料の誘電率や電気機械結合効果等の物性が次第に小さくなる。その理由として熱揺らぎの抑制によるドメイン効果の低下や光学フォノンの凍結等が挙げられる。一方、量子常誘電体と呼ばれるSrTiO_3,KaTiO_3などの物質は低温領域に巨大な誘電応答を示す。その巨大な誘電応答が量子効果に由来すると考えられる。本研究では、その量子効果を強誘電体に適用することで極低温環境にも使用できる強誘電体材料の開発及び新たな材料設計の指針を得ることを目的としている。本年度はこのような目的を達成するために量子強誘電体相転移が起きると予想されているBa_(1-x)Ca_xTiO_3系に注目し、量子臨界組成の結晶の開発と誘電物性の評価を行った。量子効果が顕著に現れる組成x=0.233の良質な光学結晶の育成に成功した.この結晶を用いることで、分極軸における誘電率の温度変化の挙動を解明することが出来た。2Kから室温まで広範な温度範囲内に誘電率がほぼ一定の高い応答を示すことが判明した。その高い誘電応答がソフトフォオンに由来することは分光測定より明らかになった。量子臨界組成において極低温より広範な温度範囲に熱揺らぎに対して量子揺らぎが顕著に現れるため、温度の低下に伴うソフトフォノン凍結が抑制され、結果として誘電率が高い応答を示すという重要な結論を得ることが出来た。また、極低温電気測定のための冷凍機のシステムの構築も行った.
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