研究概要 |
相転移近傍に位置する系では、ドメインの振る舞いが物性に大きな影響を及ぼすことが理論的に示唆されている。この様なドメインの物性は、ヤンテラー歪みなどの格子ひずみの大きさとドメインの遍歴性の大きさを考慮する必要がある。特に、格子の影響が比較的小さい場合には、理論的には裸の電子よりも大きな分散(バンド幅)を持つという特異な性質が予想されている。本研究では、相転移近傍でのドメインが示す特徴的な空間スケールや、形状、ドメイン同士の相関などの物性解明を目指す取り組みを行っている。 初年度は、ドメイン研究に適した系を調査するために幾種の材料の中で有機材料に着目した。放射光実験に用いた物質は、ハロゲン架橋遷移金属(MX)錯体Pt-Iである。Mの周りに配位子(エチレンジアミン,シクロヘキサンジアミン等)が配位した構造となっており、配位子場効果によってMイオンのd軌道が分裂し、次元鎖方向に伸びるd軌道が電子物性を支配している。MX錯体は、大きく分けてモットハバード(MH)相(遷移金属は3価、ハロゲンイオンはM-M間の真ん中)と電荷密度波(CDW)相(遷移金属は2価、4価ハロゲンイオンはM4+に寄る)の2つの状態に分けられる。Pt-Iは、比較的MH相に近いCDW相の物質である。 放射光エネルギーをPtのL吸収端に合わせて、共鳴散乱実験を行った。その結果、基本反射強度が時間変化し、放射光を照射し続けると連続的に散乱強度が減少した。時的に放射光の照射をやめ、1分後に再度強度の測定を行ったが強度が回復することはなかった。更に、非共鳴条件にして同様の測定を行ったが基本反射強度が照射と共に減少した。放射光照射によるドメイン励起により、基本反射強度が変化した可能性もあるが、試料そのものの劣化の可能性もある。今後は、実験結果がドメインの遍歴性の変化が要因か、試料劣化が要因かを判別する必要がある。
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