研究課題/領域番号 |
22340088
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木村 憲彰 東北大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (30292311)
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キーワード | 強相関電子系 / 磁性 / 低温物性 / 超伝導 / 物性実験 / 電子構造 / 結晶育成 / フェルミ面 |
研究概要 |
今年度は、前年度に得られたCeRhSi_3の圧力-磁場-温度相図の起源を明らかにするために、特に、正方晶面内に焦点をあて、詳細な電気抵抗測定と交流帯磁率測定を行った。 重い電子系では、従来、磁気秩序温度が絶対零度に落ち込む量子臨界点近傍で伝導電子の有効質量が重くなると考えられていた。CeRhIn_5などでは、磁性の消失する圧力前後で電気抵抗の温度係数の増大が観測されており、これは有効質量の増強によるものと考えられている。ところが、CeRhSi_3では、磁性の消失する圧力前後で、電気抵抗の温度係数の増大は見られず、むしろ、圧力の印加とともに緩やかに減少するという結果を得た。また、磁気秩序は圧力印加によって1次相転移的に消失するという結果を得た。この結果は、有効質量に臨界的な振る舞いが見られないとする結果と対応する。これらの新しい結果は、CeRhSi_3の圧力-磁場-温度相図がこれまで知られていたドニアックモデルを基にした相図とは異なることを示唆する。 一方、磁気秩序温度以下で発現する超伝導は、昨年度までの研究により、弱いピン止め領域が出現することが明らかになっていたが、より詳細な実験と考察から、超伝導揺らぎが支配的であると結論した。これまで、重い電子系の超伝導では、一部の物質を除き、超伝導の揺らぎが議論されることはなかったが、本研究により、重い電子系でも超伝導揺らぎが重要であることが明らかとなった。さらに、磁性と超伝導はともに伝導電子が担うことを考慮すると、磁気秩序の消失とともに超伝導揺らぎも消失するという実験結果から、運動量空間で磁性と超伝導が相分離しているというモデルを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的であるスピン軌道相互作用が重い電子状態に与える影響については、質量増強のスピン依存性を明らかにした。また、空間反転対称性の破れによる新しい超伝導状態についても、超伝導揺らぎを見出したことにより、大きな進展が期待できる。これらの成果は、当初の研究計画が順調に進展することを示している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、超伝導の揺らぎによってあらわになる新しい渦糸状態が、空間反転対称性の破れとどのような関係にあるかを集中的に研究する予定である。特に、異方性を調べることによって、空間反転対称性の破れと特異な渦糸状態が直接関係していることが示せると考えている。また、f電子を含まないLa化合物においても、空間反転対称性の破れに共通した超伝導特性が見出される可能性があることがわかってきた。この点についても研究を推進していきたい。
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