今年度は前年度に得られた超伝導揺らぎの可能性を検証するために、輸送現象の解析および動的な磁気応答の定性的な解釈を行った。また、これまでの研究から超伝導混合状態で伝導電子の付加的な散乱が起きていないことが報告されていたが、この結果が超伝導揺らぎによっても説明できることを明らかにした。 CeRhSi3で観測される超伝導揺らぎが空間反転対称性の破れに特有のものかどうかを検証するために、結晶構造に空間反転対称性のある重い電子系圧力誘起超伝導体CeRhIn5についても超伝導の揺らぎの観測を試みた。自己フラックス法により残留抵抗比300を超える純良単結晶の育成に成功し、高圧下、横磁場による電気抵抗の測定を行った。その結果、磁性と超伝導の共存する圧力領域では超伝導転移によってきわめてブロードな電気抵抗の落ち込みが見られ、TAFF(熱活性フロー)モデルに基づく解析から、超伝導揺らぎを強く示唆する結果を得ることができた。したがって、超伝導揺らぎは重い電子系の磁気秩序と超伝導が共存する系で一般的にみられる現象で、結晶の空間反転対称性の有無とは関連がないと結論付けられる。 空間反転対称性のない超伝導体LaRhSi3について磁化測定と電気抵抗測定から超伝導臨界磁場を求めた。その結果、電気抵抗によって決定した臨界磁場は磁化測定で決定したバルクの臨界磁場を大きく上回り、一般的な超伝導体における表面超伝導では理解できないことを明らかにした。このような性質は、空間反転対称性の破れた他の物質でも報告されており、空間反転対称性の破れに起因した新奇な超伝導特性である可能性がある。
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