研究課題/領域番号 |
22340091
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松田 康弘 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10292757)
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研究分担者 |
水牧 仁一郎 東京大学, 利用研究促進部門MCDチーム, 副主幹研究員 (60360830)
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キーワード | 重い電子 / 放射光X線 / パルス強磁場 / 量子臨界 / 価数揺動 |
研究概要 |
量子臨界点近傍の物質であると考えられている重い電子系物質YbAgCu_4についで、X線吸収分光スペクトル(XAS)、X線磁気円二色性スペクトル(XMCD)をパルス強磁場を用いてSPring-8BL39XUにて測定した。この物質は30T以上の強磁場でブロードなメタ磁性転移を示すが、この転移が価数転移であり、電子相関の大きさとエネルギー準位の2次元マップにおいて価数転移の量子臨界点に近いことがその要因であるとの理論的予測がされていた。前年度から継続して研究を行ってきたが、XASから、メタ磁性転移磁場35T付近で価数が大きく増加することが確認された。さらに、XMCDからはYbの四重極遷移に起因する信号が発見された。四重極遷移をXMCDで観測した例は少なく、価数揺動系では初めてのことである。これら成果は、速報論文として一部出版され、現在、論文を準備中である。 さらに、典型的な重い電子系の1つであるCeRu_2Si_2のメタ磁性転移について、同じくパルス磁場中でのXAS実験を行った。CeRu_2Si_2のメタ磁性は磁気的な臨界現象であると考えられており、Ce価数の不安定性はこれまでほとんど議論されていなかった。しかしながら本研究において、メタ磁性近傍で価数が顕著に変化し、さらに、この物質で興味を持たれていた大きな磁気体積効果を価数の磁場依存性で定量的に説明できることを発見した。価数はメタ磁性転移磁場(約8T)において磁場依存性の様子が変化するが、さらに強磁場まで減少し続け、40Tでも変化を維持している。このことは低温で重い電子として遍歴性を獲得したf電子が、磁場によって局在化する様子を如実に捉えた現象だと考えられる。このような典型的な重い電子系のメタ磁性転移での価数変化は、これまで捉えられたことがなく、本研究の目的である、量子臨界価数揺らぎの解明に大きく貢献する成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁場による重い電子系における僅かな価数変化の観測は、本研究の目的であり、3年計画の2年目において世界で初めてそれが見いだせたことから、研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究を遂行する上での基本的な技術開発は終了したが、さらに高精度測定のための技術開発を行う。 Ce系、Yb系を中心に、量子臨界点近傍での価数揺らぎの解明を、YbAIB_4やYbRh_2Si_2、CeIrIn_5などの候補物質に対象を広げ、その解明を行っていく。
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