βパイロクロア酸化物におけるラットリング現象の解明に向けて、今年度は主に2つの成果を得た。1つはKOs_2O_6における高圧下実験であり、2つめは同物質におけるラットリング転移に関する研究である。前者では、高品質の単結晶試料を作製し、5万気圧までの高圧下で電気抵抗を測定することにより、従来報告されていなかった新たな相転移を見出した。特に3.5万気圧以上で現れる高圧相では構造が大きく歪むためにラットリングが抑えられ、超伝導転移温度が大きく減少することが分かった。これは低圧相での高い対称性がラットリングにとって重要であり、超伝導を増強していることを明確に示している。また、最近の成果として、RbOs_2O_6でも同様の実験が進行中であり、そこではさらに中間圧力相が見つかっている。そこではラットリングは止まっていないが、何らかの異なる振動状態にあると思われる。一方、後者のラットリング転移に関しては、単結晶を用いた中性子およびX線構造解析の結果から、1次の構造転移であること、結晶では初めての同形構造転移であることを見出した。これは、ラットラーが単なる孤立振動ではなく多体系として相互作用を有する結果であり、非調和振動子多体系の共同現象として興味が持たれる。今後の更なる実験を通して、その全容が明らかにされると考えている。
|