研究概要 |
βパイロクロア酸化物におけるラットリング現象の解明に向けて研究を継続している。その成果の中間まとめとして、日本物理学会欧分誌の超伝導特集号に、これまで行ってきたβパイロクロア酸化物の超伝導とラットリングに関するレビューを執筆した。我々の研究によってこの物質の超伝導の重要性が認識された結果である。また、2009年に出版された論文「Rattling-induced superconductivity in the β-pyrochlore oxides AOs_2O_6」(Y.Nagao,J.Yamaura,H.Ogusu,Y.Okamoto and Z.Hiroi : J.Phys.Soc.Jpn.78,064702/1-21,2009)が2011年度の第17回日本物理学会論文賞を受賞した。 本年度の研究成果としては、βパイロクロア酸化物と同様にラットリング現象を示すスクッテルダイト化合物ROs_4Sb_<12>に関する研究が挙げられる。様々なRイオンのラットリングに関して、単結晶X線回折実験から原子振動パラメータを決定し、Rイオンサイズについて系統的な変化を観測した。これをβパイロクロア酸化物のAイオンのラットリングと比較することにより、新たな知見を得た。確かにスクッテルダイト化合物でもラットリングの兆候があるが、βパイロクロア酸化物と比べて明らかに小さく、後者の特異性が明確となった。 一方、βパイロクロア酸化物における新規な現象発見を目指して、Aサイトの元素置換実験が進行中である。例えば、Kの代わりに、Ba^<2+>,MH_4^<1+>,H_2O、H_3O^+イオンなどをカゴに挿入する事が可能となった。その結果、どの場合においてもラットリングによる低エネルギー励起が抑えられ超伝導は完全に消失することが分かった。さらに、H_3O^+の場合にはプロトン伝導と特異な誘電緩和が観測されている。カゴ状構造の特徴を活かした新たな物性探索が進むものと期待している。
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