研究課題/領域番号 |
22340092
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣井 善二 東京大学, 物性研究所, 教授 (30192719)
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研究分担者 |
山浦 淳一 東京工業大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (80292762)
岡本 佳比古 東京大学, 物性研究所, 助教 (90435636)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ラットリング / βパイロクロア酸化物 / 新物質探索 |
研究概要 |
ラットリングと呼ばれる固体中の新しいタイプの原子振動は、比較的大きな原子のカゴに閉じこめられた小さな原子(イオン)の振動であり、その非調和性のために異常に大きな振幅を持って振動する。興味深いことにこの振動は周りの伝導電子と強く結合して、小さな熱伝導や超伝導を引き起こすことが分かってきた。本研究の目的は、もっとも顕著なラットリング現象を示すβパイロクロア酸化物において、ラットリングの本質とそれが誘起する電子物性を明らかにしようとするものである。さらに、関連する物質探索を行い、ラットリング現象の理解を深めることを目指している。 昨年度の研究の結果、KOs2O6のKの代わりに、NH4、 H2Oまたは(H3O)+や H+がカゴ内に入ることが分かってきた。水分子の場合には、酸素がK位置を占め、これがダイヤモンド格子をなすため、面心立方格子を有する「氷」とみなすことができる。そこでは、プロトンの位置に関するフラストレーションが期待されるため、通常の氷における残留エントロピーの問題を新たな視点から研究することが可能となる。一方、プロトンのみがカゴ内にある場合には、高いプロトン伝導性が期待され、応用的にも興味深い。プロトン伝導とその緩和に着目し、良質の試料を作製して実験を行った結果、水分子の緩和現象とみられる特異な誘電緩和が観測された。一方、プロトン伝導に関しては過去の報告において、同じ結晶構造を有するH2OSbTeO6に対して非常に大きなプロトン伝導が報告されている。しかしながら、われわれのオスミウム酸化物では小さなプロトン伝道しか観測できなかった。その理由を明らかとするために、H2OSbTeO6の合成を行い評価したが、やはり小さなプロトン伝導を示した。過去の報告には測定上の問題があった可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
βパイロクロア酸化物のラットリング現象の解明については概ね良好な成果が得られている。特にラットリングと超伝導の関係が明らかとなった。また、理論研究者との共同研究を通して、ミクロな機構解明が進んだ。これらの成果をJournal of Physical Society of Japan誌のレビュー論文としてまとめ、山浦氏、服部氏との共著で出版されている。 一方、βパイロクロア酸化物の大型単結晶作製に関しては現在の努力を続けている。単結晶作製は細かい実験条件の最適化と長時間の育成時間を要する根気のいる仕事であるが、これまでの経験によりその方策を明らかとなりつつあり、最終年度の研究により、ある程度の大きさの結晶育成が出来るものと考えている。 関連する新物質探索ではアルカリ金属イオンの代わりに様々な分子が内包されたカゴ状物質の作製に成功している。今後の物性測定によりそれらのラットリングと物性が明らかになるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究の結果、Kの代わりに H2Oまたは(H3O)+や H+がカゴ内に入ることが分かってきた。水分子の場合には、酸素がK位置を占め、これがダイヤモンド格子をなすため、面心立方格子を有する「氷」とみなすことができる。そこでは、プロトンの位置に関するフラストレーションが期待されるため、通常の氷における残留エントロピーの問題を新たな視点から研究することが可能となる。一方、プロトンのみがカゴ内にある場合には、高いプロトン伝導性が期待され、応用的にも興味深い。以上のように水を含むβパイロクロア酸化物において、新たな研究の発展を目指す。特に、プロトン伝導とその緩和に着目し、良質の試料を作製して実験を行う。 K, Rb, Csを含む3つのβパイロクロア酸化物に関しては、特にKにおける構造相転移の起源を明らかとするために中性子散乱実験を目指し、大型単結晶の育成に努力する。MEM解析を用いてK核の波動関数が転移前後でどう変化するかを視覚化できれば、ラットリング転移の本質が明らかとなる。 ラットリングと伝導電子間の相互作用に関する物理を確立するために、これまでの成果をまとめて概観し、後世に残る形で総括を行う。
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