研究概要 |
先ず、理論サイド(青木、黒木)では、昨年度までに我々が構築してきた、高温超伝導銅酸化物に対するdx2-y2とdz2軌道を考慮する二軌道模型をもとに、銅酸化物における転移温度の物質依存性の起源をミクロな視点から調べた。 その結果、転移温度は二つの軌道のエネルギー差によって強く支配されることがわかり、そのエネルギー差は、結晶構造のうち特に(a)CuO2平面から測った頂点酸素の高さと、(b)積層するCuO2面間の距離によって決まることがわかった。この視点により銅酸化物を分類することで、その転移温度の物質依存性を理解することに成功した。また、高温超伝導銅酸化物に圧力を加えたときの転移温度の変化が何から生じるか、という長年の未解決問題を、この2軌道模型の視点から調べた。その結果、圧力効果の起源は、上記のdx2-y2とdz2軌道のエネルギー差の圧力依存性のほかに、(c)dx2-y2軌道と銅の4s軌道のエネルギー差の圧力依存性、および(d)バンド幅の圧力依存性も重要であることがわかり、これらの総合的な効果で転移温度の圧力依存性が生じることがわかった。この解析から、銅酸化物の超伝導は多軌道性によって抑制されることがわかるが、この効果を考慮して未知の超伝導体を探索するために、銅酸化物と類似の結晶構造を持つNi化合物においても二軌道模型の解析を行い、超伝導発現の可能性を調べ始め、村中とも実験可能性について多くの議論を行った。以上に加え、高温超伝導銅酸化物については、多層系を理論的に調べ、特に何故1層系から3層系に行くにつれてTcが上昇するのか、という長年の謎について、層間のペア・ホッピングが重要である示唆を新たに得た。これは多層系高温超伝導銅酸化物の理解への鍵となると思われる。 一方、実験的(村中)には、新規モット絶縁体Ba21rO4において、圧力によって金属絶縁体転移が誘起されることを明らかにした。更に、金属的な振る舞いを示す圧力領域での反強磁性的な揺らぎに起因した非フェルミ液体的挙動や、金属絶縁体転移近傍での2次元モット絶縁体であることを反映した異常な振る舞いを観測し、Ba21rO4の電子状態がmarginal quantum critical point近傍に位置することを示唆する結果を得た。また、[100]配向Bドープ・ダイヤモンド薄膜を様々な手法により育成し、[100]配向膜としては最高レベルのTcに達する高品質薄膜の育成に成功した。更に、表面状態や電子状態と超伝導特性との相関を調べ、バンド計算による電子状態との対応を明らかにした。さらに、擬AIB2型構造を有する新規三元素系化合物Ba(TM,Si)2(TM=Cu,Ag,Au,Ni,Pd,Pt)の合成に成功し、これらが新規超伝導体であることを発見した。
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