研究概要 |
(青木)今年度は、多層銅酸化物高温超伝導体が、CuO2面の枚数nをn=1,2,3と増加させると実験的にTcが上昇し、n=3で現在最高の転移温度Tc=135Kを持つことを理論的に理解するため、第一原理計算およびそれに基づくダウンフォールディングから模型を構築し、自己エネルギーを考慮したFLEXによってEliashberg方程式を解き、1-3層系の超伝導性を調べた。本年度は特に、多層系においてCooperペアが層間をホップする過程を取り入れ、この過程がTcを増大させる、という重要な結果を得た。層間のペアー・トンネリングは、Anderson等により(Andersonの直交定理の発想から)一体の層間トンネリングの2次過程として考えられていたが、我々のアイディアは、電子間の多体相互作用の行列要素として存在するペア散乱を考え、また、d波超伝導を扱っているので、隣り合うサイトのペアの層間散乱を考た。 (黒木)銅酸化物における超伝導転移温度の圧力効果の起源について研究を行った。銅酸化物は通常、dx2-y2軌道の単一軌道系としてとらえることが多いが、意外にも、dz2、4s軌道混成が重要な役割を果たしており、圧力下でこれらの成分が薄められる「軌道浄化効果」により、転移温度が上がることを示した。特に4s軌道の浄化効果は銅酸化物以上に高い転移温度を持つ物質の発見につながる可能性もあるため、物理的な圧力だけでなく、元素選択に基づく手法により、4s軌道浄化を実現する可能性について調べることにも着手した。 (村中)実験サイドからは、d9系を実現する系としてNi層状窒素化合物に着目した新規超伝導物質探索を行った結果、Y-Ni-B-NにおいてTc~12Kの新規超伝導相と思われるシグナルを発見した。更に、軽元素(炭素)を含有した層状化合物に着目し、Ln2SnC (Tc=5K)の新規超伝導相を発見した。
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