研究概要 |
銅酸化物高温超伝導体の一つSr2CuO3+〓(Sr2CuO4-yは、最初に発見されたLa系と同じK2NiF4構造をもち、単位胞にCuO2面を1枚含む。Cuを囲む酸素八面体の頂点に位置する酸素原子そのものがドーパントであり、この酸素を規則整列させることで超伝導転移温度TcはLa系の倍以上、一層系としては最高の液体窒素温度77Kを20Kも上回わる98.5Kにも達することを本研究代表者を含むグループが実証した。この物質は、超伝導材料として、他の銅酸化物高温超伝導体にない優位性をもつ;(1)Sr,Cu,Oの3種類の元素だけで成り立つ、(2)これら3種類の元素には毒性がなく、また希土類や希少金属元素を必要としない、(3)ドーパント原子を整列させることが容易なため、格子乱れの無い超伝導体となる。しかしながら、純粋な単一相の試料作製が難しく、その物性研究が殆ど進んでいない。本研究は、この超伝導体の多結晶試料を高温・高圧下で合成し、さらに、1)塩素を含まない酸化剤の使用、2)ドーパント酸素の整列を促す低温アニール、3)Srの一部をBaに置換することによるTcの向上と最高Tcをもつ相の体積分率の増大を目標に実験を行った。その結果、Tcは100Kに迫るまで向上した。Tcが90Kを超える超伝導相の分率も向上したものの、単相試料の合成までには至らなかった。そこで、分率が確実に100%で同時に様々な物性測定が可能になるSr2CuO3+〓の単結晶成長の試みを開始した。CuO一次元鎖の物質Sr2CuO3の単結晶をフローティングゾーンで合成し、それを高圧・高温・高酸化雰囲気下でK2NiF4構造に変換することに成功した。Tcは未だ40Kで、更に改良の余地があるものの、電気抵抗率等物性測定が初めて可能になった。
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