本研究は、分子性化合物の微小量結晶を対象に、磁場、電場、圧力など外的パラメターを能動的に制御した熱容量測定を可能とし、多角的な熱力学的情報を得ることを目指した開発研究である。初年度にあたる平成22年度は、まず、大阪大学で現有している超伝導磁石に組み込まれた温度可変インサートと組み合わせて使用可能な小型希釈冷凍装置と、共同利用装置として使用可能な、分子科学研究所の大型希釈冷凍装置(300μW)を使った極低温の緩和法による熱容量測定セルの開発を行った。室温で1kΩの抵抗値の酸化ルテニウムセンサーを使って10Tまでの磁場中での温度較正を行い、さらに、小型フィルムヒーターと組み合わせ緩和型熱容量測定セルとした。このセルは、上記の二つの希釈冷凍装置に搭載可能なように設計を行い、互換性のある実験を可能とした。さらに温度検出、極低温での温度制御が可能になるように測定系の整備を行った。これらの二つの冷凍装置の立ち上げを行った後、分子性化合物の磁性超伝導体であるK-(BETS)_2FeCl_4の測定を行い反強磁性転移に伴う熱異常の検出と、その磁場依存性を検証した。 このような極低温測定と並行するかたちで、圧力下測定の開発を進めた。本年度新たに導入した低消費型クライオスタット内で使用可能な、圧力下カロリメターを搭載した^3Heクライオスタットの作成とそのテストを行った。分子性の超伝導体であるK-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2の3mg程度の結晶を用いて、圧力セル内に試料と温度計、ヒーターを入れ交流法による測定を行い、超伝導転移の検出とその圧力依存性を調べることに成功した。さらにK-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Br塩とそのBEDSe-TTFによる希釈系での超伝導転移に伴う熱異常の圧力依存性についても定性的ではあるが評価することに成功した。
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