研究課題
平成23年度は、まず研究計画に掲げた1κ型の分子配列をもつBEDHTF塩の中で、二次元の三角格子構造を示し磁気的なフラストレーションのためにスピン液体状態を形成するκ-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3塩の面内磁場依存性を調べ、軽水素体、重水素体の両方の塩で磁場方向依存性がないことを明らかにした。また、同時に伝導性を示すがスピン液体物質に近い三角格子性を有するκ-(BEDT-TTF)_4Hg_<2.8>gBr_8,κ-(BEDT-TTF)_4Hg_<2.78>Cl8の塩の極低温、磁場下熱測定を行い、ホールドープによって作られた伝導電子による電子熱容量係数γが、通常のκ型塩と比較して2-3倍程度に増大すること、さらにはその状態でも超伝導転移が存在することを熱容量測定によって確認した。さらに、一方で、前年度からすでに整備を進めている高圧下測定の本格的な展開をはかり、Cu-BeのクランプセルにNiCrAlのセルを用いた1.7GPaまでの高圧下熱容量測定を最低温度0.9Kまで行うことに成功した。この装置を用いて、κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2の圧力下熱測定を行い超伝導転移の系統的な変化を観測した。測定開発の過程で、信号の検出感度をあげるため、試料、温度計、ヒーター部をエポキシ樹脂でコートすることが有効であることが判明した。また、年度後半には、低温、高圧の実験と並行するかたちで、θ-(BEDT-TrF)_2csZn(SCN)_4塩で、電荷のゆらぎを電流印加によって制御した状態での熱容量測定の開発にも着手した。四端子をつけた単結晶試料を緩和型の熱容量測定装置に搭載して電流印加し定常状態を作ったまま緩和法による熱測定を行った。ヒーティングパワーが電気抵抗の変化によって変化するため、抵抗変化が大きい極低温では安定して測定できないが、4Kから上の温度領域では測定が可能であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
低温、高圧状態での熱測定につては、実際に超伝導転移のような微小な相転移を検出するところに至っており、成果の発表等に至っている。また電流印加状態での測定にも計画通り、着手することが出来た。
高圧下での熱測定によって超伝導のような微小な熱異常の信号を感度良く検出することが、本研究の最終目的達成のためには重要である。平成23年度に検討したエポキシ樹脂を用いた方法をさらに検討し、各種材料を吟味することで最適条件を見出す必要がある。また、電流印加状態での熱測定をθ-(BEDT-TTF)_2CsZn(SCN)_4や有機超伝導体に適用し電荷秩序、超伝導の電流印加による効果を検討する。
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