研究概要 |
平成24年度はκ-(BEDT-TTF)4Hg2.89Br8, κ-(BEDT-TTF)4Hg2.78Cl8の塩の極低温、磁場下での研究を行った。低温熱容量の結果をもとに強い反強磁性的なスピン揺らぎが低温での電子熱容量係数の顕著な増大につながっていることをκ-(BEDT-TTF)4Hg2.78Cl8塩を対象に追跡し、ゼロ磁場下での電子熱容量が-TlnTに従う二次元の反強磁性的な理論モデルで良く説明できることを指摘した。また両塩において10Tまでの強磁場印加下で熱容量を測定すると、大きなドナー分子上に存在するプロトンによる大きなショットキー熱容量が出現することが明らかになった。遍歴π電子をもつ有機導体の中で最もスピン揺らぎが強いκ-(BEDT-TTF)4Hg2.78Cl8塩ではその熱容量がすべてのプロトンの核比熱を取り入れたモデルで説明できることが判明した。また電流印加条件下での熱容量測定の開発も並行して行った。計測部が大きなユニットになるため、装置を導入できるクライオスタットが必須になり、当初予算では計画していなかった低ヘリウム消費タイプの装置を急遽導入した。その結果、電流印加条件下での抵抗値の温度変化による加熱量の補正を加える解析方法を用いてしq-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4塩で2mAまでの電流印加下での5-20Kの熱容量の電流依存性についての実験に成功した。電荷の凍結によってあらわれる低エネルギーフォノンの構造には、この電流領域では変化は検出されないため電荷凍結の融解はさらに高い電流域でおこることが示唆される。 本研究課題によって、低温、磁場、圧力、電場[電流]などを組み合わせた条件下の熱的測定が分子性化合物の単結晶を用いた熱測定に有効であることが明らかになった。
|