研究概要 |
本研究は、強相関f電子系における量子臨界点近傍の電子状態を解明するために、実際の物質に対して現時点で実行可能な範囲で多体効果を考慮した電子状態計算方法を開発することにある。そのために、磁気的な強相関電子系に対しても実行可能な精密な電子構造計算方法を開発し、さらにLDA+U法を始め、LDA+DMFT法などの多体効果を考慮した手法により計算を実行し、実際の実験との比較を通じて、計算手法の改良と基礎的な電子構造の解明を行なうことを目的としている。 本年度は、以前より共同研究を行なっていた原研の鈴木氏が整備した汎用性の高いLDA+U法の計算コードの移植と最適化を行なった。試行計算を経て本格的な計算を行なうようコードの最適化などを行なっている。さらにLDA+U法でスピン軌道相互作用が入っている場合には、時間反転対称性がなくなる場合に計算が極めて複雑になるが、簡単な例を計算して汎用性に目処をつけた。 具体的な計算としては、RT_2Al_<10>(R=La,Ce;T=Fe,Ru,Os)の電子構造とフェルミ面を調べて、LaRu_2Ge_2のGe位置の構造最適化を行ない、最適化された構造ではフェルミ面に関する実験結果を非常によく再現することを示した。また、PrOs_4Sb_<12>を想定して、LDA+U法で用いられる密度行列の多極子モーメントの大きさとSb位置の電場勾配との関係を調べた。関連して、CeCu_2Si_2の圧力下NQR実験の解析も進めた。さらに、若手理論研究者22名を集めて「強相関電子系理論の最前線-若手によるオープン・イノベーション-」と題する研究会を開催して、今後の強相関電子系の研究動向を議論した。この研究会は、今後の電子状態計算方法の展開を考える上で有益であった。電子構造から求まる電荷密度分布と結晶場との関係についても愛媛大楠瀬氏との議論で、今後の手がかりを得た。
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