研究概要 |
最近,圧力下の2次元有機導体α-(BEDT-TTF)_2I_3のフェルミ面近傍の分散関係が,質量ゼロのディラック粒子と同じ線形なエネルギー-運動量(波数)の分散関係(デッラックコーン)になっていることが,非常に温度依存性が小さい電気伝導性をはじめとしたその特異な輸送現象を説明するために理論的に提唱され,大変注目を集めている。間接的にディラックコーンの存在を示唆する測定はいくつか存在するが,この圧力下α-(BEDT-TTF)_2I_3で確かにディラックコーンが実現しているということを示す直接的な実験はまだ存在しない。そこで,ディラックコーンに特有なサイクロトロン共鳴(CR)の磁場依存性(通常磁場Bに比例するCRと異なり,Bの平方根に比例)を,我々がこれまでに開発した圧力下の高周波強磁場磁気光学測定装置で観測することにより,α-(BEDT-TTF)_2I_3にディラックコーンが存在することを実験的に検証するとともに,それを特徴づけるフェルミ速度を決定するのが本研究の目的である そこで今年度は,高圧を安定的に発生できるよう新しい透過型圧力セルの設計及び評価をおこなった。これまでの透過型ピストンシリンダー圧力セルは,内径3mm,外径8mmのNiCrAl合金で,電磁波の透過を可能にするため内部のピストン等が電磁波の透過を可能にするジルコニアでできている。既存の加圧システムで加圧後,圧力セルのキャップをネジ止めすることで圧力を保持できる。このタイプの圧力セルの発生圧力は内外径比を大きくすると上がることが知られている。そこで,外径を10mmに増加した新しい圧力セル(内径3mm、シリンダー全長42mm)を設計・制作した。この圧力セルの低温における発生圧力をCsCuCl_3の反強磁性ギャップの強磁場ESRによる観測で評価した。その結果,1.3GPaの発生に成功した。今後,この圧力セルを用いてディラックコーンに特有なサイクロトロン共鳴(CR)の観測を試みる予定である。
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