研究概要 |
酸化ユーロピウムは,強磁性転移温度(T_c)が70Kの強磁性半導体であるが,我々のこれまでの研究で,EuイオンをLaイオンに置換して電子のドープと格子定数を小さくする相乗効果によって,T_cを200Kまで上げることが出来ることが知られている。しかしながら,そのメカニズムは定量的にはわからないことが多い。そのために,ドーピングによる効果を正確に見積もることができるように,試料を数原子層まで薄くした系の作成を試みた。我々は従来バッファー層にBaOを使ってきたが,BaOとEuOの格子ミスマッチが大きく,この方法では数原子層の膜を作ることは困難であった。そこで,格子ミスマッチが小さいSrOをバッファー層として用いることで,均一な数原子層のEuO薄膜を作ることに成功した。実際に膜厚の減少に伴ってT_cが減少すること,ユーロピウム4f準位と酸素2pバンドとの混成強度が減少するという従来の予想を再現する結果が得られた。このようによく定義できた薄膜試料をつくることができたため,それを用いて次年度以降に電子ドープおよび格子定数とT_cの関係を定量的に決定し,T_cがどこまで上がるか実験的に予測していきたい。 その他,磁気転移温度が従来の予想に比べて高い系であるCeOs_2Al_<10>の磁気転移の起源となる電子状態を偏光赤外分光で調べ,電荷密度波が原因であることを突き止めた。また,磁性と超伝導の関係が注目されている鉄系超伝導体A_xFe_2Se_2(A=K,Cs)の電子構造を角度分解光電子分光で決定し,超伝導の対称性についての知見を得た。
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