研究概要 |
酸化ユーロピウムEuOは,強磁性転移温度(Tc)が70Kの強磁性半導体であるが,我々のこれまでの研究で,EuイオンをLaイオンに置換して電子をドープし,かつ,格子定数を小さくすることによる混成強度の増加の相乗効果によって,Tcを200Kまで上げることが出来ることが知られている。しかしながら,そのメカニズムは定量的にはわからないことが多い。そこで,今年度は,電子ドープ効果のみを引き出すために,昨年度に作成に成功したEuO超薄膜試料(Tc~40K)にカリウムを蒸着しながらの電子構造変化の観測を行った。その結果,カリウムによって電子をドープすることだけでも,Tcが120Kまで上昇するのが見られた。また,電子のドープ量がある値を超えると,強磁性が抑制される効果も観測された。この結果は,最適ドープ量が存在することを示している。つまり,Tcを上げるためには,最適ドープ量を決定し,その際にどのような電子構造が現れるかを調べる必要がある。電子構造を放射光3次元角度分解光電子分光で調べたところ,カリウムからの電子はリジッドバンド的にEu5dバンドにドープされるのではないことがわかった。このことは,電子占有状態の変化のみを追跡するのではなく,電子非占有状態の変化も調べることが重要であることを示している。そこで本年度は,電子非占有状態の情報を得るために,新たに逆光電子分光装置を立ち上げた。現在調整中であるが,次年度以降,EuO超薄膜作成チャンバーに接続し,電子非占有状態の情報も得る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁性半導体酸化ユーロピウムEuOの強磁性転移温度を上げるために,強磁性の起源と考えられるEu 4fとO 2p電子間の超交換相互作用(混成効果)とEu 4fとEu 5d電子間の間接交換相互作用(電子ドープ効果)を分けて調べる必要があった。今年度は,電子ドープ効果について調べることができたため,おおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後,電子ドープや混成効果を変化させた際の電子構造変化を調べるため,放射光を用いた3次元角度分解光電子分光だけではなく,逆光電子分光を取り入れた研究を行なっていく。また,このことで,EuOの強磁性転移の起源が明確になり,室温での強磁性半導体を実現できるかどうかがわかるものと考えられる。
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