研究概要 |
1.昨年度に発見した半金属SrIrO3とバンド絶縁体SrTiO3を積層した人工超格子におけるスピン・軌道相互作用誘起モット絶縁体について、電子構造と磁気構造を検証した。硬X線光電子分光と軟X線吸収分光から、Ir 5dバンドがフェルミ準位近傍に存在する一方、Ti 3dバンドはフェルミレベルより2 eV程度高い位置にあることを見出した。すなわち超格子中においてSrTiO3が良いブロック相として作用し、電子構造はIr 5d電子の低次元閉じ込めとして記述できることが分かった。また、Ir L吸収端における巨大な共鳴効果を利用し、超格子薄膜における共鳴磁気X線回折を行った。磁気ピーク(1/2, 1/2, 5)が観測され、IrO2面内の磁気単位格子がSr2IrO4と同様の反強磁性秩序と矛盾しないことを見出した。併せて、これらの電子構造・磁気構造が安定であることを理論計算で検証するとともに、SrTiO3のブロック層を介したIrO2面間が強磁性的に結合することを見出した。高度に制御された人工超格子作製技術により、スピン・軌道相互作用と電子相関の協奏が次元性の効果が明らかになった。 2.昨年度に開発したスピンダイナミクスを用いたスピン流生成技術(スピンポンピング法)を用いて、IrO2薄膜中へのスピン注入を行い、逆スピンホール効果の検出に成功した。その電圧信号はPtの場合と比較して約10倍であり、初年度に観測した面内スピンバルブ素子を用いたスピン吸収法により得られた結果とよく一致している。2つの異なるスピン流に対して同様のスピン流→電圧変換特性を示すことから、5d遷移金属酸化物が高効率スピン流検出用材料として非常に有望であると結論した。
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