研究課題/領域番号 |
22340114
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 正仁 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70271070)
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研究分担者 |
川口 由紀 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00456261)
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キーワード | 原子 / 低温物性 / 物性理論 |
研究概要 |
平成23年度はクラスター展開法によるボース系およびフェルミ系の超流動相転移の研究を行った。冷却フェルミ原子気体のBCS-BECクロスオーバーが実験的に実現され、近年、超流動転移に伴う熱力学量の振舞が詳細に調べられている。この系は特に散乱長が発散するユニタリ極限付近において強相関量子多体系となるため、この系の超流動転移をクロスオーバー全体に渡って正しく記述する平均場理論は知られていない。本研究では、この系の相転移を解析するために、クラスター展開に基づく新しい方法を提案した。我々はLee-Yang のクラスター展開法を一般化し、ボース系およびフェルミ系の超流動の発現の判定条件である密度行列の非対格長距離秩序の発現を記述する方法を明らかにした。我々の形式は一様系のみならず、トラップポテンシャルのある冷却原子系でも使える一般的なものである。 また、スピノールBECを流体力学的に記述する方法の研究を行った。スカラーBECの場合、秩序パラメターを振幅と位相に分解することにより、流体力学的方程式である連続の方程式とベルヌイ方程式が導かれたが、スピノールBECの場合は多成分であるために閉じた形の流体力学的方程式は、強磁性相など特定の相の場合にしか導かれていなかった。今回、それをスピンが1のスピノールBECの場合に多成分グロス・ピタエフスキー方程式と完全に等価な流体力学的方程式の導出に成功した。この方程式は粒子数密度とスピン密度に加え、スピンネマティシティが含まれることが分かった。この方程式を用いてスピノールBECの量子乱流などへの応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究で、BEC-BCSクロスオーバーをLee-Yangの方法で記述するための一般論の基礎が確立された。また、スピノールBECの流体力学的記述についてはグロスピタエフスキー方程式と完全に等価な流体力学的方程式が書き下せたことは大きな成果であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
Lee-Yangの方法はBCS極限の導出ができるかどうかがカギになると思われる。スピノールBECについては有限温度の相図を研究することが、バークレーの実験の理解などのために重要になると考えられ、この方向で研究を進める。他方、エフィモフ状態をはじめとする3量体の研究については、今後冷却原子の分野でますます重要になっていくものと考えられるため、重点的に研究を進める。
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