研究概要 |
本年度は、磁気トラップ中に生成したRb原子のBose-Einstein凝縮体(原子数~10^5個,長さ~100μm,直径~10μmの葉巻型)を光ポテンシャルによってリング型に断熱変形するためのレーザーシステムと、その原子波位相の光学的制御に必要なレーザー光源の開発を行った。 凝縮体の変形には中心部に穴を開けるレーザー(波長532nm)と平面内に閉じ込めを行うレーザー(波長1064nm)の二本のビームを使用する計画で、それぞれについて光強度と照射位置を高精度に制御するビームステアリングシステムの構築を進めた。これは、回折方向を互いに直交させた2個の音響光学変調器を利用して、約10μsの短い切替時間で同期して回折角や回折強度を高速に変調する光学系で、これにより凝縮体の断熱変形に必要な短い周期でビーム照射位置を数μm程度の高い精度で空間掃引することが可能になった。また、より高い精度でのビームステアリングには、今後、変調器の放熱や温度変動の補償などの対策が必要なことも分かった。 原子波位相制御用レーザーとしては、Rb原子の反跳エネルギーに相当する10kHz程度以下の周波数線幅を目標に、光帰還法による周波数安定化半導体レーザーの開発を進めた。トラップ中の凝縮体では、このような狭帯域レーザー光を用いた誘導ラマン遷移により、レーザー波面の位相を原子に焼き付け、制御することが可能である。超低膨張ガラス製光共振器を用いてkHz程度の高い分解能が期待されるスペクトラムアナライザーを新たに製作し、出力光のスペクトルを測定したところ、40kHz程度の線幅であることが確認できた。この共振器の共鳴信号を利用して更に周波数安定化を行うことで、必要な線幅を達成できる目途がついた。
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