最初に、以下に示す蒸着試料用断熱型熱量計の改造を行った。(1)蒸着チューブからの輻射熱を減らすため直径を8mmφから2mmφにした。(2)蒸着チューブを冷えやすいように熱交換ワイヤーをつけた。(3)蒸着チューブの上下可動範囲を大きくした。以上の改造により、10Kで蒸着を行い(改造前は25K)、4K程度から熱容量測定ができるようになった(改造前は8K)。また、精密蒸着ラインを製作した。このラインには、2つの微少流量用メータリングバルブと2つの高精度バラトロン圧力計が設置されており、0.1Paの蒸着圧力精度で非常に精密に蒸着ができるようになった。以上に示した装置を用い、通常の液体急冷ではガラス化しない単純分子であるプロペンとプロパンのガラス状態の作成に成功した。両試料の熱容量測定において、ガラス特有の低エネルギー励起(ボゾンピーク)とガラス転移を観測した。プロペンとプロパンのガラス転移温度はそれぞれ56Kと46Kであった。46Kはこれまでに測定された分子ガラスのうち、最も低いガラス転移温度である。また、プロペンガラスの残余エントロピーは6J/K/molと非常に低く、ガラスにおいても短・中距離的な秩序化がかなり進んでいることが明らかになった。その他、これまで測定した分子ガラスと併せて解析することにより、過冷却液体の過剰熱容量のスケーリングなど、興味深い結果が得られた。上記の熱容量測定と平行して、既設のX線回折装置の蒸着オプションの製作、基礎データ測定に必要な粘弾性測定装置の機種選定と購入なども進めた。
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