研究課題の最終年度にあたる今年度は、これまでの成果を土台にして研究を進めた結果、幾つかの新たな成果が得られた。具体的には、タマムシの多層膜干渉に関する定量的評価とそれによる位相整合層の発見、その原理を応用したタマムシ発色基板の製作、シジミチョウの構造色に関する研究、色変化する構造色を評価するための顕微鏡システムの改良などである。前年度、タマムシの多層膜構造を形成する二種類の材質の屈折率を決定した。一方、多層膜構造の厚さを電子顕微鏡観察から決定することで、任意なパラメータ無しに光学特性を解析することが可能となった。その結果、タマムシの多層膜構造は単純な周期的構造ではモデル化することはできず、表層付近の層が内部と比べて厚いことが、緑色の光を強く反射させるために重要な役割を果たしていることが分かった。表層付近の層が、多層膜構造内部から反射した光と最外層で反射された光の位相を合わせる働きを持っているのである。その工夫を模倣した再現基板を作成し、SPIE国際会議において発表を行った。シジミチョウに関する研究では、アイノミドリシジミを対象として多層膜構造の非周期性を取り入れた数値解析を行った。その結果、類似の反射スペクトルを与える無数の多層膜構造が、二つのタイプに分離できることを見出した。二つのタイプでは膜構造の全体の厚さが異なり、このチョウは全厚が薄いタイプを採用している。また、色変化する構造色をより詳しく調べるための顕微鏡システムの改善を行った。顕微鏡下にレーザー光を導入することが可能となり、また、透過配置においても角度依存性を測定できるような工夫を行った。実際に樹脂でできた矩形回折格子を対象に理論的な計算値と顕微鏡システムを用いた実験結果を比較することで、構築したシステムが定量的に回折効率を評価できることを確認した
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