研究概要 |
本研究では,(1)マントル遷移層の電気伝導度をスタグナント・スラブの影響を強く受けている地域とそうでない地域で電磁場の海底における長期観測から求め,(2)それらを含水Wadsleyiteと含水Ringwooditeの高温高圧実験結果と比較し,プレートの沈み込みによるマントル遷移層への注水効率を事例解析に基づいて定量的に明らかにする事を目的とした研究を行っている。 平成22年度は、海洋研究開発機構の研究分担者と協力して、海底長期電磁気観測を西フィリピン海盆で実施した。その結果、海底電磁場六成分の長期時系列を取得する事に成功した。また、同観測点に海底長期電磁場観測ステーション(所謂「海底地磁気観測所」)の代替機を敷設する事もできたので、来年度以降もスタグナント・スラブからの脱水の影響下にあるマントル遷移層上での観測継続の見通しが立った。また、マントル遷移層の電気伝導度をより精密にモデル化する為、構造推定法を周波数領域から時間領域に拡張する事を目標として、三次元不均質球内の電磁気的過渡応答を計算するコードを多層構造を含められる様に改良した。 海底観測と平行して、岡山大学の共同研究者は室内における高温高圧実験を実施し、マントル遷移層条件での含水率測定を行った。その結果、含水Wadsleyiteと含水Ringwooditeの電気伝導度はHuang et al.(2005)が主張する程高くない、すなわち、マントル遷移層の構成鉱物の電気物性に対する「水」の影響は従来考えられてきたものより小さい可能性がある事が示された。 これらの成果は、国内学会・国際学会で各一件ずつ口頭発表を行った上、査読付き国際誌に掲載された原著論文一篇と図書一冊にまとめて公表した。
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