研究概要 |
本研究では, (1)マントル遷移層の電気伝導度をスタグナント・スラブの影響を強く受けている地域とそうでない地域で自然電磁場の海底における長期観測から求め, (2)それらを加水Wadsleyite及びRingwooditeの高温高圧実験結果と直接比較する 為の観測/実験を実施している。スタグナント・スラブの影響を強く受けている地域とは,具体的にはフィリピン海プレート中央部に位置する海底長期電磁気観測点(WPB点)を,そうでない地域とは北西太平洋海盆のNWP点を指す。 平成23年度は,NWP点で海底観測を実施しデータの蓄積を図った。同年7月末に海洋研究開発機構の研究船「かいれい」を用い,二台の海底長期電磁気観測ステーションの回収と代替機一台の敷設に成功した。室内実験については,昨年度に引き続き410km不連続付近の温度・圧力条件で含水かんらん石をWadsleyiteへ相転移させ,含水率を変えながら電気伝導度を測定した。これらの海底観測は藤・浜野が,室内実験は芳野が担当した。 また,観測・実験に先立ち,海底電磁場時間変化に及ぼす地磁気静穏日変化(Sq)の影響についてのデータ解析を行い,予め生時系列から24時間周期とその高調波を取り除いておく事により,その影響がかなり軽減できる事を見い出し,5月に行われたJpGU主催の連合大会で成果報告を行った。さらに今年度の研究成果は,査読付き国際誌に掲載された原著論文三篇と図書一冊にまとめて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スタグナント・スラブの影響下に無いマントル遷移層(NWP点下)の電気伝導度を海底電磁気観測から推定する作業は,平成23年度の海域観測がうまくいったため順調に進展している。一方,スタグナント・スラブの影響下に在る遷移層(WPB点下)の電気伝導度推定は,やや遅れている。その理由は,このWPB点がNWP点より新しい観測点である為,もともと過去データの蓄積が少なく,また,現有データも地磁気活動度が低かった時期のものの割合が高い為である。 海域観測で推定したマントル遷移層電気伝導度の比較対象である室内実験は,含水Wadsleyiteの測定が終了しこれも順調である。ただし,含水Ringwooditeの測定を平成24年度に実施しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は最終年度である為,室内実験では含水Ringwooditeの電気伝導度測定を,海域観測ではWPB点でのデータ取得に努め,年度内に成果の取りまとめが行えるようスケジューリングに留意する。 平成24年度にWPB点で海域観測を実施する為の研究船利用は最上位ランクで採択されているので,今年度のWPB点観測はまず間違いなく実施でき,そのデータが加われば,スタグナント・スラブが遷移層電気伝導度に及ぼす影響をより定量的に明らかにできるものと考えられる。
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