本研究では,ヘリコプターの上昇・下降を利用した大気下層の鉛直モニタリングシステムの開発を進めてきた.観測期間としては間欠的ではあるものの,これまで得られた直接観測データから気温と湿度の鉛直プロファイルを作成し,それらの妥当性を気象庁のアメダスデータやメソ解析データセット(以下,M-ANAL)との比較を通して検証した.冬季の寒気の吹き出しは,伊豆諸島周辺でも総観規模(数日から1週間の時間規模)で変動している.比較検証用の2つデータセットから,八丈島空港離陸時に最も近い時刻・近い格子点の気温データを抽出し,鉛直プロファイルデータセットの離陸時(つまり,高度 0 m)の気温データと比較した.直接観測データはアメダスの記録に対して0.98の同時相関係数,M-ANALに対して0.79の同時相関係数を示した.鉛直方向の温位差(delta-theta)は,大気下層の混合状態の指標となり,delta-thetaが小さいほど混合層が発達している.直接観測の記録は地表面気温の観測結果と同様にdelta-thetaが総観規模で変動していることを明瞭に示す.一方,M-ANALのdelta-thetaはほぼゼロで一定となっていて,M-ANALの計算に用いられている大気モデルでは下層で常に混合層が形成されていることを示唆する.過去の直接観測に基づく研究成果が示すように,海面付近の静的安定度は総観規模で変動していて,海洋上の大気下層の状態は常に混合状態にあるわけではない.直接観測の記録とM-ANALとの比較は大気モデルの境界層の取り扱いに問題があることを示している.
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