研究概要 |
プラズマの大きな密度構造が次第に小さな姿へと形を変えていくカスケードは,電離圏のみならず広く宇宙空間に存在するプラズマの動態にかかわる過程である.これまで観測装置の制約のために,電離圏でのカスケード過程の実証が不十分で,未だその詳細が謎のままである.本研究では,電子増倍機能を有する次世代の高感度デジタルCCDカメラをノルウェーのスバールバル諸島ロングイヤビェンに配置し,メソスケール密度構造のカスケード過程を明らかにすることを目的としている. 本年度はまず,昨年度製作を完了したコンピュータ制御の観測装置のテスト観測を行い,その作動が問題無いことを十分確認した後,装置の較正を行った.この較正には,分担者の所属する国立極地研究所の装置を利用した.データ取得に備えて,解析システムの大枠を構築した後,10月の後半に現地に赴き,観測装置を設置した.その後,観測シーズンの終わる2月末までの間,良好なデータが取得できた.データは取得されると,その日のうちにはネットワーク経由で研究室に送られる.このようなシステムを構築できたことで,シーズンの終了を待たずにデータの解析を進められた. 今年度の解析から次のような結果が得られている.一つは,カスケード過程に直接かかわると考えられる50km程度のスケールの電子密度分布の波状構造の証拠を得たことである.波状構造は,電離圏の電子密度の高い領域が移動していく際に,その後方部分で生まれていることから,勾配型のプラズマ不安定性がその生成にかかわっていることがわかる.もう一つの結果は,カスケード過程に間接的にかかわってくる赤色オーロラの空間分布についてである.観測地では昼間の時間帯でもオーロラが観測できるが,この赤色オーロラが数分間,限られた部分で発光強度を極度に減少させる事例を見出し,それが起こる原因を示した.
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