研究概要 |
宇宙線は大気原子核と反応して放射性炭素を生する。この炭素を樹木が取り込み,年輪として固定するので,古い樹木年輪中の放射性炭素を測定すれば過去の宇宙線強度の変化がわかる。地球へ到来する銀河宇宙線強度は太陽活動による惑星間空間磁場の変動に影響されるので,この測定から過去の太陽活動を知ることができる。 過去三千年の太陽活動の周期性,特に11年/22年周期のシュワーベ/ヘール・サイクルの変遷を解明するために,樹木年輪を1年分ずつ処理して測定試料を作成し,放射性炭素濃度を加速器質量分析計で測定,解析した。紀元前8世紀は太陽活動の顕著な極小期と思われ,まずこの年代の試料を1年おきに測定した。分析計が不調だったこともあって,今回の測定でははっきりしたことはわからず,次年度以降にさらに解析をする。西暦7-9世紀はそれほど顕著な極小期ではないが,その兆候はある。そこでこの年代の試料を1年おきに測定した。以前の我々のグループの研究で西暦880年以降を測定しているので,当初想定した測定範囲を少し拡張することによってデータをつなぐことができ,西暦602年~1072年の1年おきの放射性炭素濃度の時系列データを得た。このデータをフーリエ解析したところ,11年と14年の卓越した周期が得られた。11年は現在の太陽活動に見られる平均周期であり,14年は17世紀のマウンダー極小に現れた太陽活動周期である。そこでこのデータをウェーブレット解析したが,顕著な11年,14年周期は見えていない。今後,測定精度を上げて太陽活動周期の抽出を試みる。一方,今回の測定で,8世紀後半に放射性炭素濃度の急激な増加が見られることが明らかになった。この変化が誤差に比べて十分に有意であることを確認し,今後はその原因の特定を目指す。これらの結果から,太陽活動の周期の変化や宇宙線強度の急激な変化が地球環境にどのような影響を与えたかを知る手がかりが得られると考えている。
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