今年度はランプ式レーザーの利点である高出力域でのパワー安定性に着目し、安定した高出力レーザー光を偏光板回転式レーザー出力調整器に導入し、パソコンによる偏光板の極微小回転によって±5℃を達成した。これによって、伝統的な古地磁気学の熱消磁実験(特に古地球磁場強度推定実験)で必要な数℃単位での温度調整が可能になった。また、加熱領域に安定な直流磁場を発生させるためのコイルを導入し、制御磁場環境下での熱消磁・着磁が行えるように改良した。現在はこの装置を利用して、野島断層岩中に発達する磁化しているケルビンヘルムホルツ型の褶曲帯形成時の最高到達温度の推定を実施している。このケルビンヘルムホルツ型の褶曲帯は、断層運動によって母岩と断層との間のせん断速度の差によって形成されており、さらに褶曲帯は微細な磁性鉱物の生成により弱く磁化しているため、我々の走査型磁気顕微鏡による観察と局所レーザー加熱装置による微細磁性鉱物の再現実験をおこなうことによってのみ、磁性鉱物の形成環境が解明できる。さらに今後、この技術開発を推し進め、スポット古地球磁場推定実験に取り組んでゆく。 また、非線形物理学の世界で問題になっている磁化の加熱温度とその加熱時間に関する関係式を理論的に解明してゆく過程で、まず線形な磁化の温度ー時間関係が天然で成り立っているかに着手した。そのため石垣島産のサンゴ礁起源の津波石を用いた。その結果、現在は天然記念物に指定されている津波大石が、1771年の明和津波以前の複数回の巨大津波によって運搬されたことを証明することができ、さらに線形の温度ー時間関係から求めた津波年代は、放射性炭素年代とも一致する結果を得た。さらに、この複数回の津波の影響は水理シミュレーションでも確認されている。しかし、いくつかの津波石では線形関係式が成り立たないケースが散見されたので、非線形温度時間関係式を適応してゆく。
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