研究概要 |
沈み込み帯の地震活動はH20流体の挙動に大きく依存し、そのH20流体の関与するプロセスを考える上で最も重要となるのが含水マントル物質である蛇紋岩である。近年、蛇紋岩の脱水不安定性が沈み込みスラブの地震の要因であるという仮説が有力であり、もしこれが本当であるならば、震源分布から沈み込み帯の温度条件や流体生成場について大きな制約条件を与えることが可能になる。本年度は、ガス圧式変形試験機をもちいて蛇紋岩の脱水反応に伴う力学物性の変化を調べた。実験には高温型蛇紋石(アンチゴライト)を主とする天然の蛇紋岩を用いた。円柱型試料をもちいた定歪速度圧縮試験では、これまで高封圧(800MPa)で行ってきた実験でみられた脱水軟化現象とは異なり,今回行った封圧200MPaでは脆性破壊がおこり,圧力によって反応の効果に変化が起きることが明らかになってきた.蛇紋岩はウェッジマントルに存在し沈み込みプレート境界のカップリングを弱めると考えられているので,その摩擦挙動も重要である.蛇紋石ガウジの摩擦実験では脱水反応とともに摩擦強度があがるという、インタクト岩石とは異なる挙動が確認された.走査型顕微鏡(SEM)による分析の結果、勇断集中面には反応生成物であるオリビン(フォルステライト)が形成されており、これが力学挙動の変化に寄与していると推察した。沈み込みプレート境界にはH20流体が存在すると考えられるので、間隙水圧が摩擦強度に与える影響を定量化しすることも重要である。本年度は常温でタルクを模擬物質とした摩擦実験を常温、封圧200MPaで行ない、「有効応力の法則」が高圧では成り立たなくなることを見いだした。さらに同様の実験を蛇紋岩についても行なうために、東京大学地震研究所の岩石破壊実験装置をセットアップし、予備実験を開始した。
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