西オーストラリア・ピルバラクラトンの太古代の地層であるスティルリープール層(34億年)の2地点、ファレル珪岩層(30億年)の複数地点から採取した試料について塩酸-フッ化水素酸分解を行い、レンズ状、球状、フィルム状等の有機質微化石を抽出することに成功した。すなわち、岩石薄片中にて確認されていた多様な形態の微化石が、有機質膜を保持した状態で保存されていることが確認でき、これらのうちスティルリープール層から産出した中空のレンズ状微化石は最古のアクリターク(所属不明で中空の有機質微化石)ということになる。このように微化石の抽出が可能になったことにより、通常の顕微鏡を用いた観察をより詳細に行えるだけでなく、電子顕微鏡等を用いたサブミクロンスケールの微細構造の観察が可能となった。例えば通常の顕微鏡観察でも、1)レンズ状微化石の本体を取り囲むツバ(フランジ)には小胞や繊維状組織、網目状組織があること、2)薄片化石で鎖状構造としていたものが、実際はレンズ単体が入れ違いに並んだ複雑な構造であること、等が明らかとなった。また電子顕微鏡観察では、レンズ状微化石本体部内にサブミクロンスケールの微小な球体がぎっしり詰まっていることがあることや、フランジ部の網目状組織のうち少なくとも一部は規則正しい多角形をしていること(すなわち真核生物的な細胞膜の構造)が分かった。さらにエネルギー分散X線分析により、微化石には窒素や硫黄が濃集し、さらにはホウ素も高濃度で含まれていることが明らかとなった。太古代前中期という初期地球においても微生物の形態学的な複雑さや多様性を新たなアプローチにより実証することができた。現在2本の論文を準備中である。
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