研究課題
地球温暖化に伴って、数十年スケールで大変動する太平洋のイワシ資源は、今後どのような変動を示すのか。中世温暖期におけるイワシ資源量の低下期に着目し、イワシ類の気候変動に対する応答様式の解明を試みてきた。本年度は特に、中世温暖期におけるイワシ資源量変動の振幅減少の原因の一つとなり得る索餌海域(親潮域)の水温の役割について、古水温指標を用いて解明を試みてきた。<噴火湾コア解析>Uvigerina akitaeusisの有孔虫殻酸素同位体比から、噴火湾中央部の底層水温(水深105m)は6500 cal BP以降上昇傾向を示し、1375 cal BP以降、大きな振幅を伴いながら減少傾向を示した。堆積速度が予想以上に遅いことと(20-60cm/kyr)生物擾乱によって酸素同位体比記録から1000年スケール以下の変動を検出するのは困難であった。<苫小牧沖コア解析>火山灰分析及び14C年代測定を追加分析した結果、堆積速度は80-145cm/kyrと比較的速く、高時間分解能(2cm、約30年間隔)でのTEX86法による古水温復元を行うことができた。コアトップの復元水温と観測水温から、TEX86Lの水温指標は、6-7月の表層水温を反映していることが推察された。過去3000年間で3回の温暖期(BC470-230年、AD830-1330年、AD1900年以降)と2回の寒冷期(BC200-AD790年、AD1350-1890年)があることがわかった。AD830-1330年の温暖期は、マイワシの低資源期(AD830-1250)にあたり、親潮域の初夏の水温の温暖期との関連が示唆された。しかしながら、水温の数百年スケール変動はマイワシ魚鱗フラックス変動との間に明瞭な関係が認められない。苫小牧沖コアの14C年代エラーによる年代の不確定性を今後考えていく必要がある。
2: おおむね順調に進展している
親潮域における水温復元に関して、年代決定、火山灰分析、古水温指標のそれぞれを計画どおり実施し、イワシ資源量低下の原因となりうる水温上昇との関連を示唆する結果が得られた。
水温復元の結果、苫小牧沖コアでは高時間分解能での水温復元が可能であることがわかり、今後この試料を用いて低次生産記録の復元を行っていく予定である。これにより、温暖期におけるイワシ資源量の振幅の低下の原因に関する2つの仮説(最適水温説・ボトムアップ説)について、検討できるデータを提示していく。
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Marine Environmental Research
巻: 71 ページ: 247-256
Geophysical Research Letters
巻: 3 ページ: L00F02
10.1029/2010GL045827