研究概要 |
本研究では、高圧装置中の試料に対しガンドルフィーカメラ型多軸揺動を施し、粗粒の粒子からも均質な回折強度を得ることを試み、高圧下X線回折実験に付随する、回折粒子統計の問題を解決することを目的としている。 我々はガンドルフィーカメラ類似の揺動機構を備えた、DAC用多軸揺動装置を考案・開発し、同時に新設計された高開口角DACとともに、装置を放射光実験施設(SPring-8, BL-04B2およびBL-10XU)に導入して、既知物質を用いて実際にデータを取得、動作試験および装置全体の評価をおこなってきた。本年に於いては、第一に、揺動動作の機械的シーケンスの追究を、その統計的意義付けとともにおこなった。エバルト球上の、同一経路を通過しないような、動作をプログラミングで再現し、解析した結果、対象結晶物質の回折多重度には依るものの、低エミッタンスの放射光X線源を用いたとしても、概ね±4度程度の3次元揺動を繰り返すことで、回折に寄与する粒子統計は、2桁以上改善されることを明らかにした。こういった、効果的な揺動機構により、本年は、各種の高圧下試料に対し、構造精密化の実験をおこなった。独立な原子パラメーターの少ないルチル構造(MgF2)から対称性の低いBi2O3構造等で揺動効果が確かめられた他、新規高配向超硬物質ReN2やWNの圧縮率決定実験等においても大きな効果を発揮した。その一方、液相から成長した氷VI相への構造解析については、回折粒子数が数粒という極端に限られた状態での実験となったため、困難が生じた。本年は、その問題を克服するために、アンビル回折点を避けながら、より広角度までの揺動を可能にする揺動同期シャッターシステムを導入した。現在、その同期プログラムを開発中であり、今後の展開も大きく期待される。
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