研究概要 |
神奈川県立博物館から配分を受けたZagami隕石には、これまで研究されていない不適合元素が濃集した岩相(Ol-rich lithology: Ol-L)が含まれていた。本研究ではこの岩相に着目し、1) Rb-Sr同位体年代学研究をすすめ、2) 39Ar-40Ar年代を求め、3) Zagami隕石の他の岩相(細粒岩相、粗粒岩相、暗色岩相)と、岩石鉱物学、初生87Sr/86Sr同位体比、形成年代、微量元素存在度を比較した。 Ol-Lから分離した11試料について、Rb-Srアイソクロン年代169±6 Ma, 初生87Sr/86Sr=0.721412±0.000019を得た。Ol-LのRb-Sr年代は、Zagami粗粒、細粒、暗色岩相のRb-Sr年代と誤差の範囲で一致した。Ol-Lの初生87Sr/86Sr同位体比は、これまで報告されていたZagami試料の初生87Sr/86Sr同位体比と比較すると有意に低く、起源の異なる新たな成分(火星地殻物質)の寄与が示唆された。カリウムに富むガラス試料(重量100-300 μg)について39Ar-40Ar同位体分析を行い、39Ar-40Ar年代187±12 Ma, 40Ar/36Ar切片1883±27を得た。この39Ar-40Ar年代は、これまでに報告されていたZagamiのRb-SrおよびSm-Nd年代と調和的であった。これらの試料にみられた高い40Ar/36Ar比(~2000)は、火星大気成分がZagamiマグマに混入したものなのか、あるいは180 Maに岩石が固化したときに完全に脱ガスしないで残っていた放射起源Arなのかについては、さらなる考察が必要である。 本研究の岩石鉱物学、同位体年代学研究から、およそ2億年前の火星の火成活動において、化学および同位体組成の異なった液(地殻起源物質)が、通常のマグマに付け加わったことが示唆された。
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