研究課題/領域番号 |
22350001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤井 朱鳥 東北大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (50218963)
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キーワード | 水 / アルコール / 水素結合 / クラスター / 赤外分光 / 質量分析 / 相分離 / 密度汎関数法 |
研究概要 |
本年度は水-アルコール混合系を考える上で基本となる、純粋なアルコール分子からなる大きなクラスターの赤外分光を行った。最も単純なアルコールであるメタノールの中性クラスター(MeOH)_nとプロトン付加メタノールクラスターH^+(MeOH)_nの二つを対象とした。中性クラスターではフェノール1分子を紫外発色団として混入させ、フェノール部のブロードな電子遷移を経由した多光子イオン化を利用してサイズ選択赤外-紫外二重共鳴分光を行った。n=10-40のサイズ範囲で3μm領域の赤外スペクトルを観測することに成功した。プロトン付加クラスターに関しては、重連型四重極質量分析器を用いて赤外解離分光を行い、厳密にサイズ選択されたクラスターのスペクトルをn=10-50のサイズ範囲で観測した。中性クラスターとプロトン付加クラスターのスペクトルはお互いに良く類似し、特にn=30以上のサイズでは両者は良く一致した。これは、余剰プロトンがメタノールの水素結合構造に与える影響が大きくなく、更に大きなクラスターにおいては、その影響の希釈が進むためであると考えられる。3μm領域の赤外スペクトルにおいては、水素結合OH伸縮振動が3300cm^<-1>を中心とする単一の強いバンドとして現れ、自由OH伸縮振動バンドは観測されなかった。メタノールの水素結合ネットワークは、その配位特性から2配位(donor-acceptor, AD)分子からなる単純な直線鎖状(あるいは円環)構造を好むと予想されるが、鎖の分岐が起きると、分岐点は3配位(double acceptor single donor, AAD)となる。3配位サイトの水素結合の強度は2配位部分に比して協同効果で増強され、より低波数に現れる。しかし3100cm^<-1>付近と予想される3配位サイトの水素結合バンドの強度は3300cm^<-1>付近の2配位サイトのバンドに較べて10%以下であり、メタノールの水素結合ネットワークにおける3配位サイトの割合は極めて低いことが分かった。これは近年の分子動力学計算による凝集相メタノールへの予想と一致した結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きな混合クラスターの構造解明が本研究の目的であるが、その基盤となる(1)クラスター源の開発(2)水、メタノールそれぞれの純粋なクラスターの赤外分光と構造解明がこれまで順調に進んでいる。来年度、最終的な目標の混合系の観測に挑戦する体制がこの2年間で構築されている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は水-メタノール混合クラスターの赤外分光実験を推進し、これまでに計測された水、メタノールそれぞれのクラスターの赤外スペクトルとの比較から、クラスター内における相分離が発現するかどうかを調べる。混合クラスターはサイズ選択に必要な質量スペクトルが非常に複雑になることが予想され、信号強度と質量分解能の相反関係の中で計測可能な妥協点が見つかるかどうかが問題であると予想している。クラスター源の条件を混合クラスターに対して最適化し、必要とする混合クラスターの生成を高効率化し、信号強度の増大を必要ならば図る予定である。
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