水とアルコールは巨視的には任意の比率で混合するが、ミクロレベルでは水部分とアルコール部分に分離していることが様々な実験で示唆されている。しかし、液体における分子間構造を直接的に明らかにする実験手法は依然として存在せず、水ーアルコールのミクロ相分離の実際には未解明な点が多い。そこで、本研究では、水ーアルコール混合の様相を分子レベルで理解するために、水ーメタノール混合クラスターに着目し、その分子間構造を赤外分光法により調べた。 研究の第一段階として、水クラスターに比べてこれまで知見の乏しかったメタノールのみからなるクラスターに焦点を絞り、メタノール分子間の水素結合構造の解明を行った。複数の赤外分光手法を用いて、これまでにない大きなサイズ(構成分子数)領域(サイズ10-50)における中性及びプロトン付加メタノールクラスターの赤外スペクトルを得た。スペクトルの解析から、メタノールは基本的に一次元水素結合鎖のみからなる単純な単環(プロトン付加体では二環)構造を取ることを明らかにした。更に、希ガス分子のタグ付け法により、クラスターの温度(内部エネルギー)変化よる構造変化を調べ、ミクロスケールの相転移に相当する、水素結合環の大きな構造変化(開環)の観測に成功した。 続いて、電荷によりサイズ選択が比較的容易となるプロトン付加水ーメタノール混合クラスターに注目し、その赤外スペクトルの観測を行った。既知の水の水素結合構造情報に本研究の第一段階で得られたメタノールのそれを併せて考えることを混合スペクトル解釈の基盤とし、スペクトルの解析を行った。その結果、これまで質量分析で示唆されていた、特定サイズにおけるメタノールの水包摂構造の形成を光学スペクトルから立証することが出来た。
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