研究概要 |
(1)磁場効果をプローブとした不均一反応場のナノ構造の解明:アルキル鎖が短いアンモニウム系イオン液体の不均一ナノ構造を,磁場効果プローブで検討した。磁場効果の大きさの磁場強度依存性を詳細に解析することによって,ミクロ粘性が数cPで半径2nm程度のドメインもしくはケージ構造が存在することがわかた。しかし,このサイズの構造は使用しているイオン液体(TMPA TFSAなど)のアルキル鎖による,ミセルのような構造では説明できない。そこで,溶媒分離ラジカル対モデルを適用したSLE解析により,不均一ナノ構造の解明をおこなった。次に,この不均一ナノ構造(ケージ)の寿命について,磁場効果の時間依存性から解析を行った。その結果,TMOA TFSAやDTMA TFSAなど,アルキル鎖が少し長い(炭素が8個や10個)イオン液体では,ケージの寿命が120ns程度と非常に長いことを初めて明らかにした。さらに,これまでのベンゾフェノン(BP)の光還元反応に加えて,硫黄類似体であるチオベンゾフェン(TBP)の光還元反応をプローブ反応としてイオン液体の不均一ナノ構造を検討した。その結果,溶質をBPからTBPに変えることで,イオン液体の不均一ナノ構造が変わることがわかり,MFEプローブが微妙な不均一ナノ反応場を調べるための新しいツールになることを見いだした。 (2)時間分解高周波ESRの開発:30Tパルスマグネット,300-550GHz帯の後進行波管(BWO),InSb熱電子ボロメーターの光学系の組立をおこなった。また,パルス磁場とTHz光の同期をとることで高周波ESRとしての機能チェックをおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MFEプローブを用いた不均一反応場解析の研究では,イオン液体のケージ寿命を見積もることに成功するなど当初の計画を越えた成果を得ることができた。一方,時間分解高周波ESRの開発に関しては,震災ならびそれに続く,研究施設の耐震改修のためにパルスマグネットがH23.3-H23.12まで使用できなかった。そのため,若干の遅れがでた.しかし,準備は順調に進んでいるので,次年度には遅れを取り戻せると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
時間分解高周波ESRの開発を集中的におこなう。これに当たっては,感度向上を目指した高磁場化も視野に入れ,パルスマグネットの開発も同時進行で行う。MFEプローブを用いた不均一反応場解析に関しては,生体反応のモデル反応(大腸菌におけるタンパク質の畳み込み反応のモデルとしてシステイン,シスチン関連物質の反応)の研究に着手する。
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